バイデン米大統領が2022年8月に署名し成立した「CHIPS and Science Actof 2022」(CHIPS法)。今後5年間で半導体メーカーや装置・材料メーカー、研究機関に対し総額527億ドルが支給される予定だが、まだ実際の補助金支給には至っていない。

資金分配の権限は、米国商務省から同省傘下のNational Institute of Standards and Technology(NIST:米国標準技術研究所)に移譲されているが、補助金の分配や選考方法の決定・審査を担当する委員の人選に時間を要しているとされる。

2月下旬から順次、補助金支給の受付を開始

そうした中、NISTは2月下旬から順次、商務省が資金申請プロセスに関する詳細を3段階に分けて発表する予定であると発表した。まず、2月下旬に、商用の最先端技術プロセスおよび成熟プロセスにおける製造施設資金申請に関する要綱をそれぞれ発表し応募を受け付けるとしている。これには、半導体ウェハプロセスを担う「フロントエンド」の施設とパッケージングを担う「バックエンド」いずれも対象としている。

また、春の終わりごろに、材料と製造装置メーカーに焦点を当てた別の補助金支給の要綱を発表する予定としているほか、初秋に、米国の半導体製造エコシステムをさらに強化する半導体研究開発施設を支援するための資金提供の応募を受け付ける予定としている。

このほか、米商務省は、間もなく新たな国立半導体技術研究機関となる「National Semiconductor Technology Center(NSTC)」のビジョンと戦略に関する文書を発表する予定だという。

NSTCは、米国の半導体研究の中心として機能する官民コンソーシアムの形式をとるという。日本で昨暮に設立された「Leading Semiconductor Technology Center(LSTC)」は、日本版NSTCとされており、次世代半導体研究開発でNSTCと連携するとされている。

応募殺到の補助金申請、企業ごとの額はどうなる?

CHIPS法では、5年間で総額527億ドルが半導体産業に支給されることになっているが、これが全額半導体ファブの新・増設向けに適用されるわけではなく、その内訳は以下のとおりとなっている。

  1. 半導体製造施設への助成:5年間で総額390億ドル(商務省所管)。初年度は、先端ファブに170億ドル、成熟ファブに20億ドル
  2. 半導体研究開発への助成:110億ドル(商務省所管)。初年度は50億ドル、このうちNISTをとおしてNSTCに20億ドル、先端パッケージング研究に25億ドル
  3. 防衛基金:20億ドル(国防総省所管)
  4. 国際技術保障とイノベーション基金:5億ドル(国防総省・米国際開発金融公社(DFC)所管)
  5. 人材育成基金:2億ドル(国立科学財団(NSF)所管)

このうち、NISTが担当するのは1と2である。また、これらの補助金を受給する企業は、その日から10年間、中国を含む懸念国に対して安全保安上脅威となる共同研究や技術のライセンス供与や投資が規制されることになる。

なお、米国の補助金総額527億ドルというのは一見多そうだが、あくまで5年間の支給総額である点に注意する必要がある。初年度の支給額は200億ドルほどであり、ここに多数の半導体メーカーや装置・材料メーカー(外資系企業含む)が応募することとなるため、そのすべてに分配すると個々の企業が受け取れる補助金はそれほど多くない、ということになる可能性があるほか、選考漏れも出てくる可能性もある。