ナノワイヤの作製は、市販の2インチSi(111)ウェハを基板に、分子線エピタキシー法によって行われた。ここで、GaAs結晶を成長させるために用いる構成元素のGaそのものを、結晶の核生成と成長を促進する触媒として用いることにしたとする。Siウェハ上にGa液滴を形成し、そこから光機能の高いGaAsナノワイヤが形成された。

結晶は、液滴のGaにAsが混入して結晶が生成される「気相-液相-固相成長」と呼ばれる結晶成長現象で形成された。この際の結晶ができ上がる基板の温度、供給する金属元素の蒸気圧、成長環境となる装置内圧力などが詳細に検討され、適切な条件下ではウエハ全面において高い密度でナノワイヤが均質に合成されることが発見された。

さらに、GaAsナノワイヤが形成された後、その周囲を光や電子閉じ込め効果の高いAlGaAsで覆うことで、内部のGaAs部分の電子が外部に流れ出すことなく良好に機能すること、および微細な積層構造の形成で将来のデバイス構造作製が可能になることが目指されたという。また、ナノワイヤの最表面で空気に触れる部位が、自然に酸化された膜として保護層となるよう構造設計された。

この手法により形成されたナノワイヤは長さ約6μm、直径約250nm、密度は1cm3あたり約5000万本で、これは2インチ基板全体でおよそ7億本に相当するという。

ウェハの外観は、ナノワイヤによる光散乱と吸収によって可視波長の反射率が2%未満に抑制され、元のSiウェハの鏡面状態から黒く見えるように変化したとする。ナノワイヤが成長したウェハは、市販のGaAs基板と同等かそれ以上の発光強度を持ち、さらにその発光波長はウェハ全体で均質であることも確認された。

  • Siウェハ全面にナノワイヤを形成した試料

    Siウェハ全面にナノワイヤを形成した試料。ナノワイヤが均質に形成され、光特性の高いGaAs基板相当以上の強い発光がウェハ全面で観測される。光吸収のため見た目は黒くなる (出所:プレスリリースPDF)

また、ナノワイヤ最外殻表面が空気に触れて自然酸化することで形成される自然酸化膜は、ナノワイヤの表面を安定な酸化膜で長期間保護し、光特性の向上に寄与することも示されたとする。

今回の研究により、2インチSi(111)ウェハ上で約7億本の微細ナノワイヤを、前処理や後加工などが不要な単一の分子線エピタキシー法のみで簡便に形成する技術が実現された。ワイヤは非常に均質で高品質であり、微細な積層構造も形成可能であることから、各種のデバイスも作製可能としている。ナノワイヤ群では効率的な光吸収が促進される結果も得られており、太陽電池の大出力化や、Si半導体への安価で高機能な光機能付加など、新しい展開が期待されるとした。