東北大学は4月12日、金属とハロゲンが交互に一直線に並ぶ、原子1個分の細さの電子の通り道を作る擬一次元電子系物質「ハロゲン架橋金属錯体」半導体2種類のヘテロ接合に成功し、その構造をマクロスケールおよび原子スケールで明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大 理学研究科の脇坂聖憲助教、同・高石慎也准教授、同・山下正廣名誉教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

半導体業界、コンピュータ業界の進歩をけん引してきた「ムーアの法則」。この集積回路の素子数の増加に関する法則の原動力の1つとなってきたのが、半導体プロセスの微細化であることは良く知られた事実であろう。しかし、物質を扱っている以上、原子よりも小さいものは存在しないことから、原子サイズがムーアの法則の1つの終着点という考え方がなされるようになってきたという。

そうした中で研究チームは今回、金属イオンとハロゲン化物イオンが交互に一直線に並んだ鎖構造を特徴とする半導体物質のハロゲン架橋金属錯体を2種類用いて、ヘテロ接合を作製することにしたという。

  • 2種類のハロゲン架橋金属錯体の構造

    ハロゲン架橋金属錯体[Ni(chxn)2Br]Br2(Ni錯体,1)と[Pd(chxn)2Br]Br2(Pd錯体,2)の構造。配位子には1R,2R-ジアミノシクロヘキサン(chxn)が用いられた (出所:東北大プレスリリースPDF)

ハロゲン架橋金属錯体では、金属イオンに「配位子」が結合することで構造が安定化し、水素結合によるシート構造と、ファンデルワールス力による積層構造を作ることで「単結晶」ができあがるとする。

また、層間と鎖間の相互作用が十分に弱いため、電子の通り道は金属とハロゲンの鎖方向だけに限定され、物性的には「一次元電子系」と見なすことができ、「擬一次元電子系物質」とも呼ばれるという。

金属にニッケルを用いたハロゲン架橋金属錯体は、強い電子相関のためハロゲン化物イオンの位置がニッケル間の中点に来る「モット・ハバード状態」を取るが、パラジウムを用いた場合は、電子相関よりも、一次元電子系で特に強く現れるパイエルス不安定性が勝るため、ハロゲン化物イオンの位置が中点からずれる「電荷密度波状態」を取るという。今回はこの2種類のハロゲン架橋金属錯体が用いられ、「エピタキシャル成長法」を電気化学的に行うことで接合することに成功したという。