2023年2月13日に打ち上げが予定されているJAXAの先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」は、初代「だいち(ALOS)」以来の光学地球観測衛星だ。だいちで実現した観測幅70kmの広域観測をそのままに、分解能が0.8mに向上している。それだけでなく、だいちでは可視光のRGBと近赤外の4バンドだった観測波長帯に「レッドエッジ」「コースタル」の2つが加わり、波長帯は6バンドになった。

  • 2023年2月13日にH3ロケット試験機1号機に搭載される形で打ち上げられる予定の先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」

    2023年2月13日にH3ロケット試験機1号機に搭載される形で打ち上げられる予定の先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」(C)JAXA

観測波長帯の話は複雑で、「追加されました!」といわれてもなかなか用途が思い浮かばないもの。そこで、追加された2バンドの基本的な能力と日本で期待されるこれからの用途、海外での衛星の事例について解説する。

  • だいち3号に採用された新たな観測波長帯「レッドエッジ」と「コースタル」は、何を得意としていて、どんなメリットをもたらすのだろうか

    だいち3号に採用された新たな観測波長帯「レッドエッジ」と「コースタル」は、何を得意としていて、どんなメリットをもたらすのだろうか(C)JAXA

植物の健康状態を把握 精密農業に役立つ「レッドエッジ」

  • JAXAが想定するだいち3号による観測データの利活用分野

    JAXAが想定するだいち3号による観測データの利活用分野(出典:「先進光学衛星『だいち3号』報道関係者向け説明会資料」より)

追加2バンドのうち、赤(610~690nm)と近赤外(760~890nm)の間に位置するのが690~740nm帯の波長の「レッドエッジ(Red Edge)」。名前の通り、赤の縁にある波長帯だ。レッドエッジ領域での光の反射は植物のクロロフィル生産量を反映していて、植物の健康状態によって大きく反射率が変わる。健康な植物では、赤の反射に対してレッドエッジと近赤外の反射が急激に多く(明るく)なり、これがクロロフィルが多くて健康なことを示す。逆に植物が弱ってくると、赤とレッドエッジ・近赤外の明るさの差が小さくなってくる。枯れた植物では、赤・レッドエッジ・近赤外の反射にはほとんど差がないことが知られている。つまり、レッドエッジの反射が少なければ植物が何らかのストレスを受けている可能性があり、水や肥料が足りなかったり、病虫害の被害を受けて枯れかかっていたりといった可能性がある。

このことから、レッドエッジの利用では作物の生育状況をモニタリングすることができ、最適な収穫時期を把握する、生育不良を検出して迅速に手を打つといったように、農業の精度を上げることができる。世界各地で農作物は高温障害や干ばつなど気候変動の影響を受けており、精密農業はその対策の意味でも衛星データが欠かせない状況になってきている。

たとえば、イネの生育がピークに達する時期にレッドエッジで観測観測すると、精度の高い収量予測が可能になることから、東南アジアのラオスではUAVによる観測を用いた研究が行われている。将来的にこの手法を衛星データで広域に適用できれば、収穫時期の1カ月も前にコメの生産量を把握し、市場の価格や流通を安定させるといったことにつながる。「だいち3号」のデータが食料生産の安定に貢献するかもしれない。