海藻が作る海の多様性を見通す「コースタル」

レッドエッジが赤色よりも波長の長い側であるのに対して、可視域の反対側、青色(450~500nm)よりも波長の短い400~450nm帯にあるのが「コースタル(Coastal)」バンドだ。水は光を吸収し散乱することから、可視光の衛星画像では海や川、湖は暗く映ってしまい、微妙な差異がわかりにくい。一方でコースタルは水中で減衰しにくいことから、"Coastal"の名前通り沿岸域の観測で力を発揮する。

この波長帯の観測では、海の中の植生、つまり海草や海藻の分布の様子を観測することができる。日本の沿岸では、浅瀬で海草・海藻を育む「藻場」が、ウニなどの捕食生物や台風の影響で減少してしまう「磯焼け」が問題となっている。コースタルでの観測では藻場の豊かさをマッピングすることができ、藻場の変化や磯焼け対策の効果などをモニタリングする応用が期待されている。

  • 【コースタル画像の例】LANDSAT衛星がコースタルバンドで観測した北米エリー湖で有害藻類ブルームが発生した様子。水中の微生物の微妙な変化を捉えることができる

    【コースタル画像の例】LANDSAT衛星がコースタルバンドで観測した北米エリー湖で有害藻類ブルームが発生した様子。水中の微生物の微妙な変化を捉えることができる(C)USGS

海外の衛星では、無償でデータを利用できるLANDSAT8・9や、Sentinel-2、商用衛星ではWorldView-2・3がコースタルに対応している。カナダの大西洋岸の観測データからWorldView系とSentinel-2の海藻生息のマッピング精度を比較した研究によると、海水が濁っている場合は深さ1m、澄んでいる場合はなんと深さ30mの海底まで海藻の分布をマッピングできたという。分類の精度では商用衛星のWorldView-2のデータがもっとも高かったが、WorldView衛星データはコストが高く観測範囲が狭いという制約がある。だいち3号の分解能と観測幅ならば、両者の「いいとこ取り」的な観測性能も期待できる。

重要なのはだいち3号の「利用コスト」

新しい観測波長を追加して、農林水産業の分野への貢献が期待されるだいち3号。気になるのはデータの利用コストだが、これについてはまだ価格表のようなものは公表されていない。国の方針では「(1m以下の高分解能データについては)商業価値を有する見通し」「市場価格で標準データを配布する」となっている。商用地球観測衛星のコンステレーションビジネスが世界で増大して価格でも競争が起きている中で、正しく市場を見極めた価格付けがされなければ、せっかくの能力も活用されずに終わってしまうだろう。