2022年12月、さくらインターネットは日本発の衛星データプラットフォーム「Tellus」とGISソフト「QGIS」を用いた衛星画像の解析セミナーを開催した。宇宙から来たデータを活用したビジネスの創出が注目される中で、実践的に衛星データの解析を学べる無料セミナーとあって、1回20名、2回の枠は告知の当日に埋まったという。光学衛星からSARまで幅広くリアルな衛星画像を取り扱う「Tellusの衛星データを使ったQGIS解析ハンズオン~衛星データの基礎から解析のイロハを学ぼう~」の模様をお届けする。
使ってみたいものの手が出にくかった、これまでの衛星データ事情
リモートセンシングとは、離れた場所から電波や光を使って対象物の状態を調査する手法。衛星に限らずドローンや航空機による地表の調査もリモートセンシングの一種だ。衛星であれば宇宙から広域を一度に調査でき、人の搭乗や操作が不要で、災害や悪天候などの危険な場所、陸地から遠い海上でも安全に観測できるといったメリットがある。1月のトンガの海底火山噴火では、気象衛星ひまわり8号が高度約3万6000kmの静止軌道にいたからこそ、成層圏まで達する巨大な噴煙をほぼリアルタイムに観測できたことは記憶に新しい。
ただし衛星データはまだまだ総量が不足している上に、扱うことができる人も限られている。地球観測衛星のデータはアメリカの「ランドサット」以来50年の蓄積があるものの、これまでは各国の宇宙機関を通じて政府系のユーザーや研究者に配布されるものだった。またその用途は研究開発が中心で、扱えるコンピューティング環境を用意するのも大変だった。
米国では2010年代に入ってようやく、分解能30cmという超高解像度の商用衛星画像が入手可能になり、2015年以降は超小型衛星のコンステレーションによる地球観測網のおかげで量的にも充実してきた。ただし、商用画像は安くはない。高解像度のものでは1シーン数万円から10万円を超えるものも多く、ビジネスで扱いたいと思っても気軽には手が出しにくかった。
そんな中、各国で衛星データプラットフォームが次々と整備される。USGSのEarth Explorer、欧州のSentinel Hub、そして日本のTellusなどだ。これまでバラバラに存在していた衛星データがプラットフォームに統合され、日付やセンサの種類で検索して画像を入手できるようになった。この分野のトップランナーといえるSentinel Hubは、なんと2014年に打ち上げたSAR衛星の画像を無償で公開している。レーダーで昼夜を問わず観測できるSAR衛星の画像は、元はといえば軍事技術だ。それが定期的に、無料で、世界中から利用できる。
Sentinel Hubの運用元である欧州は衛星データの配布を始めたものの、当初のユーザーは専門家に限られ、ビジネスへの活用はなかなか進まなかったという。そこで2017年から始まったのがRUS(Research and User Support)という教育事業だ。SAR衛星のSentinel-1、光学衛星のSentinel-2を中心に、データを無償で公開するだけでなく無償・オープンソフトの衛星画像解析ツール「SNAP」、重い衛星画像を扱いやすくする仮想マシン環境などを整備した。それに加えて定期的にオンラインセミナーも開催し、実践的に衛星画像を解析する手法を教えた。
RUSの新規受講者登録は2021年末で終了しているが、オンラインセミナーのテキストと映像は広く公開されていて現在でも学ぶことができる。SAR衛星を使った浸水被害の抽出や、光学画像を使った農作物の分類など、よく練られたテキストとやってみたいと思わせる実例とあいまって、衛星画像に関心を持つ人が専門家に背中を押してもらえるような感覚で独習できる。
ただしRUSの教材には、英語の壁がある。慣れない衛星画像処理の用語を英語で学ぶのはよほど情熱がないとハードルが高い上に、仮想マシンの環境は現在は使用できないため、相当重いデータであってもユーザー自身がローカルの環境で扱わなくてはならない。「日本でも同じようなものがあれば……」というところでタイムリーに始まったのが、さくらインターネット主催の「Tellus ハンズオンセミナー」だった。