また、レッドエッジのもう1つの利用に植生の分類がある。レッドエッジの量から樹木の葉の密度やバイオマス量を推定することができ、樹木の種類を区別することもできる。信州大学では、JAXAの委託によって「マツ枯れ」と呼ばれるマツの木の虫害をモニタリングする研究を進めている。この研究では、レッドエッジの観測データによって森林を樹木別、樹木の健康度別に分類することができたという。また、マツ枯れがおきたエリアで被害を受けた木を切り倒す、燻蒸するなどの対策を行い、翌年以降に感染木を減少させることもできたとのことだ。

  • 【レッドエッジ画像の例】欧州のSentinel-2衛星によるレッドエッジを用いたイタリアの農地マップ。隣り合う畑でも作物の状態が大きく異なることがある

    【レッドエッジ画像の例】欧州のSentinel-2衛星によるレッドエッジを用いたイタリアの農地マップ。隣り合う畑でも作物の状態が大きく異なることがある(C)Contains modified Copernicus data/ESA (2015)

食料生産や森林資源の保護に向けて期待されるレッドエッジだが、世界ではどんな衛星がその能力を持っているのだろうか?

商用地球観測衛星で最初にレッドエッジバンドに対応したのは、2008年に打ち上げられたドイツの光学衛星「RapidEye」だ。5機の衛星で高頻度に観測でき、分解能は6.5mと比較的高い。日本でも、RapidEyeのレッドエッジ観測データを用いて、岐阜大学や鹿児島大学が森林の樹種分類などの研究を行っている。

RapidEyeは2020年で運用を終えているが、2014年から打ち上げが始まった欧州の地球観測衛星「Sentinel-2」はレッドエッジを観測する3つのチャンネルを持ち、無料でデータを配布していることから利用が広がっている。観測頻度は5日おき、分解能は10mと限界もあるものの、レッドエッジの実力を試すにはうってつけで、存在感を発揮している。

RapidEyeやSentinel-2が切り開いたレッドエッジの可能性は、商用衛星で期待される応用となっていて、1m以下の高分解能を誇る米国のWorldView-2、WorldView-3も対応している。日本ではアクセルスペースのGRUS衛星が対応し、農業分野で利用されている。1972年に打ち上げが始まり、50年にわたって地球のモニタリングを続けている米国のLANDSAT衛星は、これまでレッドエッジに対応していなかったが、今後打ち上げられる「LANDSAT 10」ではレッドエッジ対応が検討されているという。だいち3号は、広い観測幅とマルチバンド3.2mという分解能でレッドエッジの利用拡大に食い込んでいくことが期待される。