対中半導体輸出規制を強化している米国政府がHuawei(華為技術)に対してIntelやAMD、Qualcommなどといった米国の半導体および関連サプライヤが輸出することを全面禁止したと欧米の複数のメディアが報じている。
複数の米国企業がすでに米商務省からHuaweiへの技術の輸出を今後一切許可しないという通知を受け取ったというが、商務省は特定企業に関する個別案件に関する問い合わせには答えないとしている。
トランプ前政権時代の2019年5月に、Huaweiは国家安全保障上の懸念がある企業を指定する「エンティティリスト」に掲載されて以来、米国の半導体企業が同社に半導体を販売するには政府の認可(ライセンス取得)が必要となっていたが、全面的な禁止というわけではなかった。
実際、米国連邦議会下院外交委員会で野党・共和党の筆頭委員を務めるマコール下院議員が商務省に開示を求めたところ、米政府はHuaweiに対して614億ドル分の製品の輸出許可を与えていたことが2021年10月に判明している。商務省は、技術水準が高くない製品に関して輸出許可を出していた模様である。例えば、5Gスマートフォン(スマホ)向けプロセッサは許可されなかったが、4G向けは許可されていた模様である。
議会の対中強硬派はこのようなザルともいえるHuaweiへの輸出許可に不満を募らせ、商務省に対中輸出規制の強化を求め、全面輸出禁止を主張してきた。今回、米国政府が対中半導体輸出規制強化の検討を進める中で、この議論が再燃してきたようである。現在、米国の半導体企業や製造装置企業の多くが、中国が最大市場であり、規制強化はそうした企業の業績低下、ひいては米国経済の劣化をもたらしかねないといった事情から、いままで全面輸出禁止には踏み切れなかった事情がある。
対中輸出規制強化で中国の開発力強化が懸念
Huaweiは、中国半導体製造装置メーカーを支援し、日本の装置メーカーなどにも協力を要請し、米国の技術を採用しない半導体製造装置の開発に取り組んでいる。すでに、その技術を活用した半導体製造にも取り組んでいる模様で、技術を応用した電気自動車(EV)事業にも参入している。その裏で、キオクシア、ニコン、JSRなどの日本の半導体および装置材料企業の多数のエンジニアをリクルートしている模様である。
米国政府は、ASMLやニコンのArF液浸露光装置の対中輸出を規制すべく日蘭両政府に働きかけを行っているが、中国企業の中には、ドライArF露光装置まで独自開発を遂げており、すでに液浸ArF露光装置の技術開発も進めていると言われている。2022年にはHuaweiがEUV露光装置およびその主要コンポーネントをカバーする特許(中国国家知識産権局特許出願番号は202110524685X)を申請したことも明らかになっている。
こうした動きもあり、米国の対中規制強化は、むしろ中国勢の自主開発、自給自足を促進し、長期的には、中国が米国を技術力で抜くことを心配する向きもある。すでにスーパーコンピュータ(スパコン)の分野では、米国のスパコン用CPU禁輸措置の中、15年ほどで世界最高速スパコンの自主開発に成功し、現在、世界最大級のスパコン保有国に成長しているという前例もある。