米商務省が先ごろ発表した中国に対する新たな輸出規制はHPCや航空宇宙、自動車市場、軍事産業など多くの産業に影響がおよんでいる。

TrendForceは、ハイエンドのコンピューティングチップ(CPUやGPUを含む)の市場が現段階で制裁の矢面に立たされている一方で、DRAMやNANDなどの関連チップも潜在的な供給の混乱に直面しているとの見方を示しているほか、中国企業だけでなく、米国の半導体や製造装置サプライヤにも影響を及ぼしているとしており、そうした中でも、特にHPCに依存する中国サーバ企業が困難な状況に直面することになるだろうと予測しており、そうした状況を踏まえた今回の影響について、サーバ企業をはじめとする中国の半導体大口ユーザーを中心とした分析を行ったという。

サーバ出荷への影響は短期では軽微

サーバの出荷に関しては、中国の4大クラウドサービスプロバイダ(CSP)であるBaidu、ByteDance、Alibaba、Tencentが提供するサービスが軍事利用に関係するかどうか、米国の半導体コンポーネントサプライヤはまだ確認できていないため、それら半導体サプライヤの多くは、中国市場への出荷を一時的に遅らせている模様である。ただし、TrendForceでは、現在のCSP側でコンポーネントの在庫が十分にあるため、世界のサーバ市場の出荷実績に対する短期的な影響は比較的小さく、長期的な影響は米国商務省の規制の進展に左右されるとしている。

米国の規制の結果Huawei(通信機器メーカー)とSugon(スーパーコンピュータメーカー)は、x86サーバ市場から撤退し、規制の影響を回避することを目的にサーバの提供は他の国内OEMに移管したほか、コンピュータのリースも外部委託に変更している。また、以前のCPU輸出禁止措置において、SugonはAMDに特注したチップの輸出ライセンスを取得するよう要請していたが、これも今回の規制強化によって不許可となる可能性がある。こうした結果、2022年のサーバ市場全体におけるSugonの市場シェアは2.3%に、中国市場に限っても8.5%となるものとTrendForceでは予想している。

またTrendForceでは、中国のサーバOEMが、将来的には政府のスーパーコンピューティングセンターにサーバ製品を納入する可能性があるともしている。中国企業であるInspurやH3C、Lenovoの製品が中国の国家スーパーコンピュータセンターに納入されることが判明した場合、関連する中国の産業サプライチェーンが影響を受ける可能性があるとする。現在、商用サーバは直接的な規制の影響は受けていないものの、将来的に米国と中国の間の摩擦が激化した場合、米国商務省が潜在的に危険な中国のサーバOEMおよびCSPをUVL(未検証)リストに追加する可能性を排除できず、UVLリストに含まれてから60日以内に認証を取得できない場合、エンティティリストに掲載され、さらに厳しい制裁を受けることになるためで、最悪のシナリオは、中国のサーバ需要が将来的にマイナス成長に転じることも想定されるとしている。

現在、中国本土には8つの国家レベルのスーパーコンピュータセンターがあり、無錫にあるスーパーコンピュータセンターは、独自開発のSunway TaihuLight(神威・太湖之光)を含む中国のスーパーコンピュータ開発の本拠地となっている。米国商務省の制裁強化が続けば、中国のスーパーコンピューティング技術と国内の研究能力は将来的に深刻な打撃を受けるとTrendForceは見ている。

中国のGPU/CPUユーザーに与える長期的な影響

現在、ハイエンドグラフィックスカードを使用している企業は、主にHPCセクターに集中している。CSPに関しては、AlibabaとBaiduが中国本土で最大級の企業であり、これら2社で中国のGPUシェアの最大60%を占めると見られている。前回(8月末)のGPUに関する対中輸出規制以前は、中国のCSP事業者は調達前に購入申請書を提出することで対応できたが、規制強化後はその申請もできなくなったという。ただし、バイヤーの手元在庫が多く、流通経路での供給が十分であることを前提とすれば、少なくとも2023年上半期までの需要への影響は軽微と見られるが、この規制強化は、HPCなどのスーパーコンピューティングセンターアプリケーションを明示的に禁止しているため、長期的には影響を受けることになるだろうとしている。

またチップの演算性能規制については、ECCN 3A090(先端コンピュ―ティング向けなどの半導体)、ECCN 4A090(3A090の品目を組み込んだコンピュータ)が新たに追加された制裁対象品目であり、TOPSで計算した合計処理性能が4,800以上のチップが規制対象となった。GPUとしてはNVIDIAのA100 PCIe Gen4やAMDのMI250 OAMモジュールなどが4,800TOPSという制限を超えている。将来的にも新たな高性能コンピューティング製品の輸出が制限されることになるため、中国でのサーバアクセラレーション コンピューティングの開発は打撃を受けることが予測される。

ただし、ほとんどのサーバCPUのコンピューティングパフォーマンスは、一般に禁止規定よりも低いため、Tianjin Haiguang(AMDと中国資本の合弁会社)などの中国製チップのみが直接的な規制に直面することとなる以外、IntelやAMDのサーバーCPUなどは輸出禁止の対象にはならないとされており、現段階ではIntelとAMDは、関連する中国メーカーとMOU(了解覚書)を締結し、関連製品が出荷前に軍事およびスーパーコンピューティング分野で使用されないようにする予定だとしている。

中国メモリユーザーへの影響分析

このほか、SamsungとSK hynixもSugonへの製品供給を停止しているという。Sugonが、調達したメモリがスーパーコンピューティングや中国のサーバ製品などに使用されていないことを明らかにできれば、出荷の合意に達することができる。長期的には、韓国企業は、顧客が購入したメモリ製品がスーパーコンピュータに使用されないという書面による誓約書を各顧客に要求する必要があるか否か検討しているとのことで、文書が署名されるまで、一部のメモリの出荷が規制の影響を受ける可能性があると見られている。ただし、メモリの市場在庫は比較的豊富であり、短期的には市場に大きな損害はないとTrendForceは見ている。また、SSDについては、最大アプリケーションはAI/DL(ディープラーニング)分野であり、現在の輸出規制に基づくメモリ出荷停止が、バイヤーとの契約によって是正されない場合、AI/DL分野における中国のサーバメーカーの成長が阻害されることとなり、国際的なメーカーにおけるエンタープライズSSDの普及速度は低下するものと予想されるとしている。