AKCFシートの-200~+100Vの範囲における操作速度1.24V/sの昇降電圧に対するI-V特性では、負電圧領域に電流の電圧依存性が反転する挙動、いわゆるn型半導体特性が観察されたという。I-V特性はオームの法則に従わず、電圧の上昇に伴ってある電圧以上で電流が低下する負性抵抗が発現したとする。

電圧走査でない定電圧保持のI-V特性でも-40V以上で明確なn型でかつ電流変化が生じる負性抵抗がみられたという。この現象は、電流に幅があり振動しているために生じていると研究チームでは説明している。また、この振動の原因検討として、65Vにおける電流振動のFFTスペクトラムが取得されたところ、40.6MHzに大きなピークが現れ、直流/交流変換が示されていることが明らかにされたという。

一方、R(抵抗)-V(電圧)特性の解析では、0V付近に4~5桁の抵抗値の上昇を確認。これは直流における昇降過程0~40V間での4~5桁の抵抗変化であり、回路電流ON/OFFのスイッチング現象が起きたことが示されたと説明している。

また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてAKCFの表面の解析を行ったところ、10~30nmのCNFから成るシート材から構成されていることが確かめられたほか、透過電子顕微鏡(TEM)による電子線解析ではハローパターンが現れ、アモルファス相から構成されていることが伺える結果となったとする。

さらに、広視野X線回折パターンから、アモルファスセルロース相の存在が示唆される幅広いピークが約16°、23°、30°、35°に現れたとする。アモルファス相は原子欠陥を持つため、電界集中による強電界領域(ドメイン)の形成に効果的であり、直流/交流変換の必要条件ともされている。

加えて、AKCFシートのACインピーダンス特性の計測では、低抵抗と高抵抗の2つの半円を持つナイキスト線図が得られたという。2つの半円は、AFMでの観察から確認可能な外側の針葉樹の繊維と、内側の広葉樹の繊維から構成され、大きな半円は電極が高抵抗の多孔質表面を持つためと考えられるとした。

  • (左)AFM三次元像。(右)TEM透過像

    (左)AFM三次元像。(右)TEM透過像 (出所:東北大プレスリリースPDF)

このナイキスト線図より、AKCFシートは等価回路とDCおよびAC電流領域での近似回路を持つと考えられるとする。これは、R1<R2とC1<C2時(R:電気抵抗、C:電気容量)、R1とC1の回路とR2とC2の回路が並列接合しており、直流通電時のR1とR2の並列回路(低伝導帯)から、交流通電時のR2とC2の並列回路(高伝導帯)に変化することが可能であることが示されているとした。抵抗の値は、R1<R2であることから直流通電時よりも交流通電時のほうが大きいため、ガンダイオードに類似の、低伝導帯から高伝導帯に変わるときに発現するn型負性抵抗の挙動が示されていると考えられるとしている。

なお、研究チームでは、今回得られた特徴から、高価な高純度シリコン素材やレアメタルを用いた化合物半導体とは異なり、低廉で無害のバイオ素材による半導体作製の可能性が確認されたとしており、今後、日本に豊富に存在する森林資源を活用することで、植物由来の半導体によるペーパーエレクトロニクスの実用化が期待されるとしている。