新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は12月8日、推進する「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」における「革新的AIエッジコンピューティング技術の開発(AIC事業)」の成果の1つとして、ルネサス エレクトロニクスが独自技術である動的再構成プロセッサ(DRP)技術を用いた人工知能(AI)チップを開発したことを発表した。

  • 中央のチップが今回開発されたAIアクセラレータ

    中央のチップが今回開発されたAIアクセラレータ (出所:NEDO/ルネサス)

DRPはルネサスの前身の1つであるNEC時代から開発が進められてきたクロックごとに回路構成を変更することで、1チップでさまざまな演算回路を実現する技術。

  • ルネサスのDRP技術の概要

    ルネサスのDRP技術の概要 (出所:2019年のルネサス インダストリアルソリューション事業説明会での発表資料)

今回発表されたのは、エッジ側での低消費電力を維持しつつ、AI(推論)機能の向上に向け、AIモデル軽量化手法の1つである、枝単位でのきめ細かい枝刈りとして、不規則に存在する認識精度に影響しない枝を、DRP-AIの高速回路再構成技術を活用することで、必要な演算だけに絞り込むことで、ハードウェアの並列演算性を維持しつつ高速処理を実現する手法と、積和演算ユニット(AI-MAC)の搭載による、追加学習を推論実行中であってもその動作を止めずに実行できるようにし、現場の状況によって生じる認識結果のばらつきを低減させ、センサのばらつきや設置場所を限定せず精度向上を実現することを可能とする技術。モデルにもよるが、枝刈りによる演算量を90%削減した場合でも、認識精度は枝刈り前とほぼ同等の3%程度の低下に留まることを確認したという。

  • 枝刈りモデルの高速化の概要

    枝刈りモデルの高速化の概要 (出所:NEDO/ルネサス)

  • リアルタイムで追加学習を行うことで精度を向上させることが可能

    環境による認識結果のばらつきに対し、リアルタイムで追加学習を行うことで精度を向上させることが可能 (出所:NEDO/ルネサス)

  • 従来DRP-AIと今回開発されたDRP-AI2との電力効率の比較(左)と枝刈りによる演算量削減率と認識精度との関係(右)

    従来DRP-AIと今回開発されたDRP-AI2との電力効率の比較(左)と枝刈りによる演算量削減率と認識精度との関係(右) (出所:NEDO/ルネサス)

枝刈りを行うのに必要なアーキテクチャを構築したため、従来のDRP-AI(第2世代の名称)では今回開発した技術を活用することはできないとする。

同社では、2018年ごろより、AIアクセラレータとしての活用を本格化。およそ1.5年ごとに10倍の性能向上を実現することをロードマップとして掲げており、今回開発された技術を搭載した次世代DRP-AI(同社が2018年ころに発表した資料ではDRP-AI2と表記)は、従来DRP-AIと比べ最大10倍となる1Wあたり10TOPSという電力効率を実現。DRPを搭載しない旧来のマイコン/MPUに比べ1000倍の性能向上にめどが立ったことになる。

  • 2018年に公開されたDRPのロードマップ

    2018年に公開されたDRPのロードマップ。DRP-AIまではすでに商品化済み。今回の技術はDRP-AI2に位置づけられる (出所:2019年のルネサス インダストリアルソリューション事業説明会での発表資料)

なお、今後についてはNEDOと各機関が連携する形で詳細評価および実証実験が進められる予定のほか、ルネサス自身も早期の実用化に向けたIoTインフラ事業向け製品への適用を計画しているという。