米国航空宇宙局(NASA)による有人月探査の試験ミッション「アルテミスI」の宇宙船「オライオン」が、日本時間2022年12月2日、月を回る軌道から離れ、地球への帰還を開始した。
オライオンは11月16日に打ち上げられ、11月26日から月周回軌道で試験を行っていた。このあと6日には2回目の軌道変更を行い、そして12日に地球へ帰還することになっている。
アルテミスIのこれまで
アルテミス(Artemis)計画はNASAが中心となり、欧州や日本、カナダが共同で進めている国際有人月探査計画である。早ければ2025年にも、アポロ計画以来約半世紀ぶりとなる有人月探査を行い、その後も持続的に月探査を実施。そして2030年代には有人火星探査に挑むことを目指している。
「アルテミスI (Artemis I)」はその最初のミッションとして、新開発の巨大月ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」と有人宇宙船「オライオン(Orion)」を無人で打ち上げ、性能や能力の試験や検証を行うことを目的としている。
オライオンを搭載したSLSは、日本時間11月16日15時47分44秒(米東部標準時同日1時47分44秒)、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39B発射施設から離昇した。
ロケットは順調に飛行し、離昇から約8分30秒後に目標の軌道に到達。その後、SLSの第2段エンジンを2回に分けて噴射して月へ向かう軌道に入り、そして離昇から約2時間後にオライオンが分離され、単独飛行に移った。
オライオンはその後、軌道修正や各種機能の試験、点検を行いつつ月に接近。11月21日には月に最接近し、その直前にはオライオンの軌道変更用エンジン(OMS)の噴射と月の重力を利用して軌道を変える「アウトバウンド・パワード・フライバイ」を行い、月を回る軌道に入るための軌道変更を行った。
そして26日6時52分、オライオンはOMSを再度噴射し、月を回る「DRO (Distant Retrograde Orbit)」、直訳で「遠方逆行軌道」と呼ばれる軌道に入った。
DROはその名のとおり、月の表面から高い高度にあると同時に、月が地球のまわりを移動する方向とは反対に周回するという特徴をもっている。この軌道は、地球と月の相互作用によって重力的に安定しているため、軌道維持に必要なスラスター噴射が最小限で済むという利点がある。NASAはこの利点を重視し、オライオンを試験するための軌道として使用することを決めた。
もっとも、このDROが使われるのはアルテミスIのみで、次の有人飛行試験ミッション「アルテミスII」では自由帰還軌道(月を周回せず、裏側を通ってUターンして地球に帰ってくる軌道)に、そして有人月探査を目指す「アルテミスIII」とそれ以降のミッションでは、月を南北に回り、かつ南極からの高度が約7万kmと極端に高い特殊なハロー軌道「NRHO」に投入されることになっている。
DROに入ったオライオンは、月を回りながら各種試験を実施。26日中には、これまで有人宇宙船がもっていた地球から最も遠い距離に到達した記録――「アポロ13」の40万171kmを超え、さらに28日には43万2210km離れた地点にまで到達し、新記録を樹立した。
アルテミスI、地球への帰還を開始
そして飛行16日目の12月2日6時53分、オライオンはOMSを噴射し、DROから離脱。地球へ向けた帰還を始めた。もっとも、軌道力学的に厳密なことをいえば、この時点ではまだ月を回る軌道に乗っている。
今後、試験を続けつつ、軌道修正なども行いながら飛行する。いったんは月の重力作用圏から脱出するものの、その後ふたたび圏内に入り、そして日本時間6日1時35分にはOMSの噴射と月の重力を利用して軌道を変える「リターン・パワード・フライバイ」を行い、地球へ向かう軌道に乗り移る。そして12日未明にも地球の大気圏に再突入し、2時40分ごろに太平洋に着水。地球に帰還する予定となっている。
帰還時には、オライオンは時速約4万kmものスピードで大気圏に再突入し、空力加熱によって耐熱シールドは最大約2760℃にまで熱される。これらの数値は、これまでに打ち上げられた有人宇宙船の中で最も大きく、アルテミスIにとって、そして今後実際に人を乗せて月へ飛行するのに向けて、まさに最後の関門となる。
記事執筆時点(日本時間2日)までに、オライオンは地上との通信が一時的に途切れるなどのトラブルは発生したものの、打ち上げからおおむね順調に飛行しているという。
また、オライオンを打ち上げたSLSの性能評価の結果も良好で、NASAによると「ほぼすべて予測どおりで、それ以外も1%未満のずれしかなかった」という。
SLSを打ち上げた移動式発射台については、いくつかの損傷が見られるものの、2024年に予定しているアルテミスIIの打ち上げに影響はないとしている。
参考文献