米国航空宇宙局(NASA)は2022年11月16日、巨大月ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の打ち上げに成功した。

SLSは搭載していた「オライオン(Orion)」宇宙船を月へ向かう軌道に投入。2025年に予定されている有人月探査に向け、無人の試験ミッション「アルテミスI」に挑む。

  • アルテミスIの打ち上げ

    アルテミスIの打ち上げ (C) NASA/Bill Ingalls

オライオンを搭載したSLSは、日本時間11月16日15時47分44秒(米東部標準時1時47分44秒)、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39B発射施設から離昇した。

SLSは固体ロケットブースターや打ち上げ脱出システムなどを分離しながら順調に飛行し、離昇から約8分30秒後に第1段のコア・ステージを分離した。

その後、オライオン宇宙船は太陽電池パドルを展開。離昇から約51分後には第2段エンジンの第1回燃焼を行い、地球を回る軌道に入った。

そして離昇から約1時間半後、第2段エンジンの第2回燃焼を開始。約18分間にわたって噴射し、月へ向かうための月遷移軌道への投入に成功。その約10分後にはオライオンが分離され、打ち上げは成功した。

分離直後の時点で、オライオンの状態は正常だという。

オライオンは今後、軌道修正や各種機能の試験、点検を行いつつ月に接近。そして11月21日、月の近くでスラスターを噴射し、月を回る軌道に入ることになっている。

その後は月を回りながら試験を行ったのち、月を離れ、地球に帰還する。打ち上げから帰還までは25.5日間が予定されている。

SLSの打ち上げは今回が初めて。またオライオンは、2014年にも無人試験飛行を行っているが、このときはサービス・モジュール(機械船)などが未完成の試作機であり、完全な実機での試験飛行は今回が初めてとなる。今回も無人での飛行だが、オライオンの船内には3体のマネキン人形など、各種試験機器が搭載されており、飛行中に受ける放射線の影響など、将来の有人飛行に必要となるデータを集める。

またSLSの第2段には、米国内外の大学や研究機関の超小型衛星が10機搭載されており、オライオンとは別に月に向かう軌道に投入する。その中には日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の超小型の月着陸機「OMOTENASHI (おもてなし)」と、超小型探査機「EQUULEUS (エクレウス)」も含まれており、それぞれ意欲的なミッションに挑む。

打ち上げ成功に際し、NASAのビル・ネルソン長官は「SLSとオライオン宇宙船が初めて一緒に打ち上げられるのを見るのは、なんと素敵なことでしょう。今回の無人飛行試験は、オライオンを深宇宙で限界まで鍛えることになり、有人月探査、そして将来的には有人火星探査に役立つことになるでしょう」とコメントしている。

アルテミスIの打ち上げは当初、今年8月に予定されていたが、燃料の液体水素の漏れなどのトラブルにより延期。その後ハリケーンの接近でロケットを組立棟に戻す必要が生じたこともあり、打ち上げは大幅に遅れることになった。さらに今日の打ち上げでも、地上設備からの液体水素の漏れや、飛行安全監理にとって必要なレーダーのトラブルなどが発生し、打ち上げ時刻がやや遅れることになった。

NASAの探査システム開発ミッション局の責任者を務めるジム・フリー(Jim Free)氏は「ここに至るまでには多くの時間がかかりましたが、ついにオライオンが月へ向かって飛び立ちました」と語った。

「この打ち上げ成功は、NASAと協力パートナーが、人類全体の利益のために、宇宙探索の道を歩んでいることを示しています」。

  • SLSから分離されたオライオン宇宙船

    SLSから分離されたオライオン宇宙船 (C) NASA TV

アルテミス計画

アルテミス(Artemis)計画は、NASAをはじめ欧州や日本、カナダが共同で進めている国際有人月探査計画である。

数回の探査で終わったアポロ計画とは異なり、持続可能であることを特徴とし、将来にわたって月を探査し続けることを目指している。そのために、月を回る宇宙ステーションである月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設も並行して進められるほか、将来的には月面基地の建設も計画されている。

こうした計画の実現のため、NASAは世界で最も強力なロケットであるSLSと、宇宙飛行士が乗り込むオライオン宇宙船の開発を進めており、今回のアルテミスIでは、SLSとオライオンの無人試験飛行を行うことを目的としている。

アルテミスIが無事成功すれば、2024年以降には「アルテミスII」を実施。オライオンに実際に宇宙飛行士が乗り、SLSで月へ向かい、月の裏側を回って地球へ帰還する。

そして2025年以降には「アルテミスIII」ミッションにより、4人の宇宙飛行士が乗ったオライオンをSLSで打ち上げ、月着陸船に乗り換えたのち、月の南極に着陸する。計画どおりに実現すれば、1972年にアポロ17が月に降り立って以来、およそ半世紀ぶりの有人月探査となる。

その後も、ゲートウェイを活用して持続的な月探査活動が行われるほか、アルテミス計画を通じて宇宙飛行士の宇宙での長期滞在や、他の天体の探査、資源利用など、多くのノウハウを獲得したうえで、2030年代には有人火星探査に挑むことが構想されている。

  • アルテミス計画における有人月探査の想像図

    アルテミス計画における有人月探査の想像図 (C) NASA

参考文献

Liftoff! NASA’s Artemis I Mega Rocket Launches Orion to Moon | NASA
Artemis I Press Kit
SLS Fact Sheet