東北大学、名古屋大学(名大)、京都大学(京大)、東京大学の4者は11月10日、ナノ空間の対称性を人工的に操作した「磁性メタマテリアル」を新たに開発し、室温かつ超高速で、スピン流の伝搬方向や大きさを光パルスの偏光状態により完全制御する新原理を開拓したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 理学研究科の松原正和准教授、同・小林隆嗣大学院生(研究当時)、名大 未来材料・システム研究所の加藤剛志教授、同・岩田聡教授(研究当時)、京大 理学研究科の柳瀬陽一教授、東大 先端科学技術研究センターの渡邉光助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
電子が持つ、小さな磁気の性質であるスピンの流れを用いれば、超低損失な不揮発性磁気メモリーや量子情報伝送などが実現できると期待されている。そのため、スピン流の革新的な生成・制御技術の開拓が急務となっている。そこで研究チームは今回、ナノテクノロジーを用いた微小な空間制御、とりわけナノ空間における「物質の対称性の人工操作」により、スピン流を完全光制御する新原理の開拓を目指すことにしたという。
それと同時に、光による非接触かつ超高速のスピン流の自在制御を行うため、「光ガルバノ効果」に着目することにしたともする。同効果は、物質に外部電場などのバイアスを印加することなしに、光照射のみにより方向性を持つ直流電流が流れる現象であり、この電流にスピンの自由度を付与することができれば、光によりスピン流(以後、スピン偏極電流も含む)を生成・制御することが可能になることが期待されるという。
対称性を用いた考察から、3回回転対称性と垂直磁化を同時に持つ特殊な物質がスピン流の完全光制御に適していることが判明。室温で磁石の性質(強磁性)を示す、コバルト(Co)と白金(Pt)から成るCo/Pt多層膜に、一辺の長さが数百nmの正三角形状の微小な穴を周期的に空けることで、3回回転対称性と垂直磁化を同時に持つ対称性を人工的に操作した磁性メタマテリアルが実現された。
そして、同材料に光パルスの照射が行われたところ、以下の4点などが主に確認されたとする。
- バイアス印加なしで超高速のスピン流が流れる超高速応答機能
- スピン流の伝搬方向およびスピンの向きを、磁性メタマテリアルの垂直磁化の向きにより反転できる磁気スイッチ機能
- 光パルスの偏光方向を変えると、スピン流を意図する方向に伝搬させることができる伝搬方向制御機能
- 光パルスの楕円率角を変えると、スピン流の大きさを制御できる強度制御機能
これらの振る舞いは、人工的に操作された対称性から予想される振る舞いと完全に一致。これにより、スピン流を完全に光で制御する革新的な光スピントロニクス機能の基礎原理が開拓されたという。
スピン流の制御は、革新的スピントロニクス機能を実現するための中心的課題である。これまで、スピン流の生成・制御手法として、電流・熱・音波・光・マイクロ波・機械的振動などが知られているが、室温かつ超高速で、伝搬方向や大きさを完全制御できるのは今回の手法のみだという。
今回得られた結果は、スピントロニクス技術の根幹を成すスピン流の生成・制御に対して、ナノテクノロジーを用いた「物質の対称性の人工操作」により、多くの既存物質をも機能化する普遍的な新原理・新機能を開拓するモデルとなるものであり、次世代のスピントロニクスデバイス設計の自由度を、飛躍的に向上させるものだと研究チームでは説明する。
また、今回新たに開発された磁性メタマテリアルは、従来の光科学技術・スピントロニクス技術を、ナノテクノロジーにより横断的かつ重層的に集積・発展させる超高速光スピントロニクスへの応用が期待されるとするほか、新しい光-電気-磁気融合変換技術の開拓など、学術的・産業的に重要な多くの新機能創出が期待されるともしている。