米国航空宇宙局(NASA)は2022年11月4日、有人月探査の試験ミッション「アルテミスI」の打ち上げに向け、巨大月ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」を発射台へと移動させた。

当初、打ち上げはこの夏に予定されていたが、トラブルやハリケーンの影響などにより延期。現時点で新しい打ち上げ日時は、日本時間11月14日14時7分(米東部標準時同日0時7分)に設定されている。

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    機体移動ののち、NASAケネディ宇宙センターの第39B発射施設に到着したスペース・ローンチ・システム (C) NASA/Kim Shiflett

アルテミスIの打ち上げ

アルテミスIは当初、8月29日に打ち上げが予定されていた。しかし、SLSの第1段コア・ステージにあるロケットエンジンの予冷がうまくいかずに延期。対策を行い、9月4日の打ち上げに向けて再度準備を進めていたが、ロケットに燃料の液体水素を充填している際に漏れが発生していることが判明。ふたたび打ち上げが延期されることとなった。

打ち上げチームはその後、発射台にSLSを立てた状態での修理を行うことを決め、テントを建てたうえで実施。修理は成功し、早ければ9月下旬の打ち上げも計画されていた。

しかしその後、ハリケーン「イアン」がフロリダ州に接近したことで、NASAはSLSを組立棟(VAB)に戻すことを決定。イアンはケネディ宇宙センターを通過する前に熱帯低気圧に変わったため、施設や設備に被害はなかった。

さらに、VAB内で行った詳細な検査により、ロケットに軽微な損傷が発覚。くわえて、打ち上げが大幅に延びたことでロケットや宇宙船の各所にあるバッテリーの交換や再充電、オライオンに搭載された実験サンプルの交換も必要になった。こうしたことにより、打ち上げはさらに遅れることとなった。

その後、NASAは10月12日に、新しい打ち上げ日を11月14日とすることを発表。そしてこの打ち上げに向け、NASAは11月4日12時17分(日本時間、以下同)、SLSの機体移動を実施した。

SLSとオライオンは移動発射台の上に立てられた状態で、クローラー・トランスポーターと呼ばれる輸送車両により、VABから第39B発射施設までの約6kmの距離を、約9時間かけて移動。4日21時30分ごろ、射点へと到着した。

現時点で、新しい打ち上げ日時は日本時間11月14日14時7分(米東部標準時同日0時7分)に設定されている。打ち上げ可能な時間帯(ウィンドウ)は69分間が確保されている。

予定どおり14日に打ち上げられた場合、ミッション期間は約25日となり、12月9日に地球に帰還することになる。

NASAはまた、11月16日と19日にバックアップの打ち上げ機会を設定している。このバックアップ日の打ち上げウィンドウは2時間が確保されている。

  • VABから射点に向けて移動するSLS

    VABから射点に向けて移動するSLS (C) NASA/Kim Shiflett

アルテミスIとは

アルテミスI(Artemis I)は、NASAをはじめ欧州や日本、カナダが共同で進めている国際有人月探査計画「アルテミス」の最初のミッションである。

現在NASAは、アルテミス計画のために巨大ロケットのSLSと、「オライオン(Orion)」宇宙船の開発を進めており、アルテミスIはSLSとオライオンの無人試験飛行を行うことを目的としている。

オライオンを載せたSLSは、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターから打ち上げられたのち、オライオンを月へ向かう軌道に投入。オライオンは月を回る軌道に入り、各種試験を行ったのち月を離れ、地球に帰還する。打ち上げから帰還までは1か月前後の予定となっている。

オライオンは2014年にも無人試験飛行を行っているが、このときはサービス・モジュール(機械船)などが未完成の試作機であり、完全な実機での試験飛行はこのアルテミスIが初となる。

またロケットには、米国内外の大学や研究機関の超小型衛星が10機搭載されており、月に向かう軌道に投入する。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の超小型の月着陸機「OMOTENASHI (おもてなし)」と、超小型探査機「EQUULEUS (エクレウス)」も搭載されており、それぞれミッションに挑む。

アルテミスIが無事成功すれば、2024年以降には「アルテミスII」を実施。オライオンに実際に宇宙飛行士が乗り、SLSで月へ向かい、月の裏側を回って地球へ帰還する。

そして2025年以降には「アルテミスIII」ミッションにより、4人の宇宙飛行士が乗ったオライオンをSLSで打ち上げ、月周回有人拠点「ゲートウェイ」を経由して月着陸船に乗り換え、月の南極に着陸。アポロ計画以来、約半世紀ぶりとなる有人月探査が行われることになっている。

アルテミス計画は、数回の探査で終わったアポロ計画とは異なり、持続可能であることを特徴とし、将来にわたって月を探査し続けることを目指している。そのために月面基地の建設も計画されている。

さらに、アルテミス計画を通じて宇宙飛行士の宇宙での長期滞在や、他の天体の探査、資源利用など、多くのノウハウを獲得することで、2030年代には有人火星探査に挑むことが構想されている。

  • 月へ向けて飛行するオライオンの想像図

    月へ向けて飛行するオライオンの想像図 (C) NASA

参考文献

NASA’s Mega Moon Rocket Begins Roll to Launch Pad - Artemis
Artemis I Moon Rocket Arrives at Launch Pad Ahead of Historic Mission - Artemis