米国航空宇宙局(NASA)は2019年12月9日、開発中の巨大ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」のコア・ステージが完成したと発表した。

初打ち上げは2020年11月の予定で、無人の宇宙船を月へ送り込む。そして2024年には有人月着陸に、さらに2030年代には有人火星探査にも挑む。

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    完成したSLSのコア・ステージ (C) NASA/Jude Guidry

巨大ロケット、スペース・ローンチ・システム(SLS)

スペース・ローンチ・システム(SLS:Space Launch System)は、NASAが月や火星への有人飛行のために開発している、巨大ロケットである。

NASAは2020年以降、月を回る有人の宇宙ステーション「ゲートウェイ(Getaway)」を建造するとともに、有人月探査計画「アルテミス(Artemis)」によって、2024年にはアポロ以来となる有人月面着陸を実施。そしてその後も継続的に有人月探査を行い、さらに2030年代には月を足がかりに有人火星探査に挑む、という構想を描いている。

その実現の要となるのが、このSLSと、SLSによって打ち上げられる「オライオン(Orion)」宇宙船である。

SLSの全長は100mを超え、地球低軌道に約100t、月に向けて約30tの打ち上げ能力をもち、その寸法や打ち上げ能力はかつて人類を月に送った「サターンV」に匹敵する。開発はボーイングが担当している。

ロケットは2段式で、1段目をコア・ステージと呼び、その両側には固体ロケット・ブースターを装備する。コア・ステージの上には2段目が載り、さらにその上にオライオン宇宙船や、ゲートウェイのモジュール、物資などを搭載する。

機体やロケット・エンジンなどは、コスト削減や信頼性確保などを目的に、スペース・シャトルの遺産を最大限に活用している。たとえば1段目のタンクは、シャトルの外部燃料タンク(ET)の構造をほぼ踏襲。エンジンも、シャトルのメイン・エンジンとして使っていた「RS-25(SSME)」を、3基から4基に増やして装備する。さらに、固体ロケット・ブースターも、シャトルのSRBを延長したものを使用する。

また、ミッションに応じて有人ロケット型や物資運搬型などに機体構成を変えることができ、さらに将来的には、ブースターや2段目の改良・換装などで、段階的に能力を向上させる計画もある(詳しくは後述)。

  • SLS

    飛行するSLSの想像図 (C) NASA

巨大ロケットの1段目を担うコア・ステージ

もっとも、SLSの開発は死屍累々だった。SLSの検討と設計は2011年から始まり、2014年には開発がスタート。その当時、最初の打ち上げは2018年11月に設定されていた。しかし、技術的な問題や、竜巻による開発拠点への被害などで、開発スケジュールは何度も遅れ、それにともなうコスト超過にも悩まされてきた。

また2019年3月には、トランプ政権の指示の下、「2024年までに有人月着陸を実施する」と決定。それまでNASAでは、SLSの開発の遅れも勘案し、「有人月着陸が可能になるのは2028年ごろ」という見通しを持っていたが、トランプ大統領の号令一下、4年前倒しされることとなった。

このような状況を経て、12月9日にようやく、コア・ステージ(1段目機体とエンジン)が完成。2020年11月の初打ち上げに向けて、準備が整いつつある。

コア・ステージは1段目に相当し、液体酸素と液体水素を搭載して、メイン・エンジンのRS-25を動かす。

コア・ステージは今後、製造が行われてたルイジアナ州ニュー・オーリンズにあるミシュー組立工場から、ミシシッピ州にあるNASAジョン・C・ステニス宇宙センターへ送られ、打ち上げに向けた最後の試験を行うことになっている。

完成記念式典に登壇した、NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「SLSのコア・ステージの完成は、2024年に初の女性飛行士と、アポロ以来となる男性飛行士を月に送り込むことを目指したアルテミス計画にとって、大きなマイルストーンとなりました。これは米国の冒険心と独創性の現れです」とスピーチした。

また、SLSプログラム・マネージャーのJohn Honeycutt氏は、開発の遅れを取り戻し、アルテミス計画の目標実現に向けた工夫を紹介。「今年の初め、私たちはコア・ステージを垂直に立てた状態ではなく、水平に寝かせた状態で組み立てるように計画を変更しました。これにより、スケジュールを前に進めることができ、今年の年末までにコア・ステージの組み立てを完了させるという目標を達成することができました」。

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    完成したSLSのコア・ステージ。4基のエンジンが特徴的 (C) NASA/Eric Bordelon

SLSの今後の計画

今回コア・ステージが完成したSLSの1号機は、今後NASAジョン・C・ステニス宇宙センターへ送られ、「グリーン・ラン(Green run)」と呼ばれる試験を行う。

この試験では、同センターにあるB-2テスト・スタンドにコア・ステージを設置。タンクへの推進剤の充填や加圧、そして4基のRS-25エンジンの噴射など、実際の打ち上げと同じ手順、動きを地上で試験することを目的としている。

グリーン・ラン試験後、機体全体の検証と、必要に応じて改修が行われたのち、NASAのケネディ宇宙センターに送られ、ブースターや2段目機体、そしてオライオンなどを装着して組み立て、打ち上げに挑む。

SLSの初打ち上げは2020年11月以降の予定で、ミッション名は「アルテミス1」と呼ばれる。アルテミス1は、無人のオライオン宇宙船と、米国内外の研究機関などが開発した超小型衛星などを搭載し、月へ向けて打ち上げる。オライオンは月の周回軌道に入り、約2週間ほど滞在したのち、月軌道から離脱して地球へ帰還。オライオンが月への往復飛行に耐えられるかどうかなどを検証する。

その結果を踏まえ、2022年以降には「アルテミス2」の実施が予定されている。アルテミス2では、オライオンに宇宙飛行士が乗り、SLSで発射。オライオンは月へ向かって飛び、月の裏側を回って、地球へ帰還する。打ち上げから帰還まで約1週間の旅となる。

また2022年ごろからは並行して、民間のロケットを使い、ゲートウェイを構成するモジュールを打ち上げ、月軌道上で組み立てる。また同じように月着陸船も送り、ゲートウェイにドッキングさせる。

そして2024年、「アルテミス3」ミッションで、女性と男性から構成された4人の宇宙飛行士が乗ったオライオンをSLSを打ち上げる。オライオンは月の軌道に乗り、まずゲートウェイとドッキング。そして先に送った月着陸船に2人の飛行士が乗り込み、月へ着陸する。約1週間の月面での活動後、ゲートウェイに戻り、4人はオライオンに乗り換えて地球に帰還する。

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    月へ向かって飛ぶSLSの想像図 (C) NASA

出典

NASA, Public Mark Assembly of SLS Stage with Artemis Day | NASA
America to the Moon 2024
Test Like You Fly: What Is Green Run? | NASA
“Green Run” Test Will Pave the Way for Successful NASA Moon Missions | NASA