富山県朝日町と博報堂は11月2日、デジタル田園都市国家構想の主要事業として、両者が取り組む「デジタルを活用した、みんなで創る共助/共創サービス」の社会実装を開始した。

本レポートでは、今回の発表にともなって行われた、朝日町における取り組み全体および地域教育分野の新たな取り組みである「みんまなび」の説明会の一部始終と、官民共創によるデジタルを活用した探究学習を行うさみさと小学校の授業の様子、またスイミングスクールにおける新たな助け合い送迎の形である「こどもノッカルあさひまち」実証運行開始セレモニーの様子を前後編に分けてお届けする。

本稿では前編として、朝日町と博報堂の連携の過程と朝日町における取り組みの概要を紹介する。

  • 左から博報堂の青木執行役員、朝日町 笹原町長、デジタル庁 吉田参事官

朝日町と博報堂の連携の軌跡

今回、筆者が取材に伺った富山県朝日町は、デジタルを活用した「みんなで創る共助・共創サービス」の実現を掲げ、デジタル田園都市構想のデジタル実装タイプ制度で全国6自治体しか選ばれていないTYPE3に採択されている自治体だ。

デジタル実装タイプ制度とは、デジタルを活用した意欲ある地域による自主的な取り組みを応援し、「デジタル田園都市構想」を推進するため、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けた地方公共団体の取り組みを交付金によって支援することを目的に設置されている制度。

その中でも最も多い額の支援を受けることができるTYPE3は、データ連携基盤を活用した複数サービスの実装を伴う取り組みを行い、また早期にサービスの一部を開始していることが条件になっている。

そんなデジタル化推進への意識の高い朝日町だが、この活動の背景には博報堂の協力がある。

両者の協力の発端は、2020年8月に交通の実証実験として開始した「ノッカルあさひまち」だ。「ノッカル」は、地域の移動課題を解決するために、博報堂が開発した「住民同士が支え合うMaaS」。これは移動したい住民と自分の外出のついでに誰かを乗せることができる住民ドライバーをマッチングするサービスで、2020年8月から2021年3月まで実証実験を行い、現在では町の中で使える地域通貨を用いて有償サービスとして展開している。

  • ノッカルのイメージ

この実証実験を皮切りに両者は、2021年10月にDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する連携協定を締結し、2022年4月には官民連携の部署として自治体DX・カーボンニュートラル推進部署である「みんなで未来!課」を設立するなど、DX分野において自治体と企業という枠を飛び越えて未来へ向けた取り組みを推進しているのだ。

キーワードは「お互いさま」、目指すは世界で1番「みんなで未来!」な町

そんな両者の協力によって、今回新たに3つのサービスの展開が発表された。3つのサービスとは、「地域教育」における教育や子育てなど、子どもの未来を考える新たなサービスである「みんまなび」と「こどもノッカル」、「学校教育におけるDXを活用した社会起業教育プログラム」だ。

「みんまなび」は、子どもから人生の大先輩まであらゆる世代の町民同士の学びあい、助けあいにより新たな好きなことを見つけるための学びの場。教えたいことがある誰もが先生役になり、学びたいことがある誰もが生徒役となって、学校以外の場で、自分の興味のあることを見つけたり、深めたりすることが出来る学び合いのプラットフォームとなっている。

「みんまなび」LINEを通じて応募できる仕組みになっており、「メタバース体験」「TVニュース制作体験」「クリスマスリーフ作り」「野鳥生態入門」など、さまざまなジャンルから参加したい講座と日時を選択するだけで参加可能だという。

「こどもノッカル」は、前述したノッカルあさひまちの取り組みを拡充させたサービスで「子どもの移動選択肢の拡充」を目指し、子どもの送迎課題や子育ての課題解決を目指すサービス。

今回は多くの子どもが通うスイミングスクール「らくち~の」と連携し、スイミングスクールに通う子どもを地域のドライバーが送迎することで、親への負担の軽減や送迎ができないため今まで通うことができていなかった子どもたちの教育機会の拡張に役立てていきたい考えだという。

教育DXでは、小学校の総合学習で子どもたちの生活の延長上にある朝日町の困りごとを発見し、解決していくことにチャレンジする、DXを活用した社会起業教育プログラムを行う。

生徒たちは各1台支給されているタブレットを活用してグループワークを行い、時には博報堂社員から社会人としての意見をもらいながら活動を進めていく授業になっているという。

これらの新しく展開されるサービスを含めた朝日町の取り組みには、「お互いさま」という日本独自の思いやりの精神が反映されている。誰かが困っていたら助けたい、そして自分が困っている時には自分も誰かに助けてほしい、という気持ちをもとに作られているサービスが多く、古来より大切にされている精神と最新のデジタル技術の融合が特徴的だ。

「朝日町のDXは『みんなで助け合いながら』ということを大切にしています。地域の人々の誰一人取り残すことなく、世界で1番『みんなで未来!』な町を共創していきたいです」(笹原町長)

後編では、この「教育DX」と「こどもノッカル」について、実際に授業参観や実証運行開始セレモニーの様子を踏まえながら詳しく紹介していく。