コロナ禍で「部屋の中で楽しめる」という観点から人気が急上昇した観葉植物。ストレス社会の癒しとしてオフィスに置かれているというケースも増えているという。

そんな中、部屋にあふれる感情(機嫌)を栄養にして、デジタル上で育つ未来的な観葉植物として開発された「Log Flower」という新しい植物がある。

まるで未来の話と思ってしまうような最先端技術が詰め込まれたこの「Log Flower」について、開発を担当した東急エージェンシーの「半歩未来のアイデアをβ版というカタチにして発信するプロジェクト」GG(仮)のプロジェクトリーダー 兼テクニカルプランナーの井倉大輔氏とKonelの取締役兼テクニカルディレクターの荻野靖洋氏に、Log Flowerを展示していた下北沢の砂箱で話を聞いた(砂箱での展示は終了済み)。

  • 左から左からKonelの取締役兼テクニカルディレクターの荻野靖洋氏、東急エージェンシー / GG(仮)/ n1のテクニカルプランナーの井倉大輔氏

コロナ禍で生まれた「コミュニケーションの歪み」にアプローチ

Log Flowerは、ひまわりの花をモチーフにGG(仮)とKonelの共同開発によって制作された「部屋の機嫌で色を変えながら育つ『観情植物』」だ。人の声から感情を解析するAIであるEmpathを使用して30日間で成長する仕組みになっている。このEmpathは、会話の内容ではなくトーンやスピードなどの声の音響特徴から数万人の音声データベースをもとに喜怒哀楽や気分の浮き沈みを判定するAIエンジンだ。

また、感情に合わせて色を変える、ということは前述した通りだが、喜びの感情が大きいと、よりひまわりらしい上向きの大きい花を咲かせ、哀しみの感情が大きいと下向きに、怒りの感情が大きいと細く尖った花に育っていくなど、その形態にも感情が表われるようになっているという。

  • さまざまな感情下で育った「Log Flower」

「このLog Flowerは、コロナ禍で生まれた『特定の人といつも顔を合わせる環境になった』という特殊な状況から生まれたものです。ずっと誰かに会っている状態というのは、嬉しい反面、ストレスも大きくかかってしまいます。そんな『コミュニケーションの歪み』にアプローチするために開発しました」(井倉氏)(井倉氏)

  • Log Flowerの開発経緯について語る井倉氏

Log Flowerは、新型コロナウイルスの感染者数が増加の一途をたどる中、リアルでもネットでもネガティブなオーラが蔓延していた2021年の7月頃に企画の構想ができ始めたといい、ギスギスした空気に満ちあふれた世界を少しでも前向きにしたいという想いで考案されたものということが分かる。

「Log Flowerは2021年の7月頃に考案され、そこから3~4カ月というスピードで開発されました。『一期一会』を実現する花にしたかったので、パターン化されず、起こり得る最終形の選択肢が無限大になるよう設計しています。また、プロダクトとしても『IoTやアート』のように「型」にはめるのではなく、『未来的で答えのないこと』を強く意識して開発しています」(荻野氏)

  • Log Flowerの開発の際の苦労について語る荻野氏

ポジティブな言葉とネガティブな言葉を浴びて実際に育ててみると?

今回、筆者がインタビューに伺ったのは下北沢の砂箱というクリエイティブスタジオだ。

ここで8月26日~9月2日までの期間、Log Flowerの展示を「未来のパーツ展 vol.1 感情と花」というタイトルで行っており、実際に展示に参加してくれた来場者の声や雰囲気を読み取ってその花を咲かせていた。

  • 実際にLog Flowerを体験している様子。お題に沿って話しかける

会場に入ってすぐ目に入ってきたのが、2台のモニターに咲いているLog Flowerだ。今回の展示では、ポジティブな感情とネガティブな感情の差を比較するため、左右で「あなたが手に入れたいもの(WANT)」と「この世界からなくなってほしいもの(DON’T)」に分けて展示会の参加者は声を吹き込んでいた。

「あなたが手に入れたいもの(WANT)」を吹き込んでいる左側の花は全体的に黄色く元気なイメージになっており、「この世界からなくなってほしいもの(DON’T)」を吹き込んでいる右側は中心になるにつれて青みがかっている。

  • 実際の展示されていた花の様子。右側が「この世界からなくなってほしいもの(DON’T)、左側が「あなたが手に入れたいもの(WANT)」を吹き込んでいたもの」

このようにその時の感情によって花の成長が変わり、その部屋にどんな感情があふれていたかを測る指標になるのだ。

そのため、家庭で使用することを想定しているのはもちろんのこと、駅のホームやオフィス、学校、レストラン、ライブ会場などといった「感情が集まる場所」である公共空間での活用も視野に入れているそうだ。

また、成長した花は花が咲いた後にNFTとして発行される。その場その時の空間の感情が「花」のインターフェースを通じてブロックチェーン上で記録されるまでが1つの体験として設計されているとのこと。

両者は、今後の展望について以下のように語った。

「今は開花した花が種に戻る際に消えてしまうのですが、全ての花がプロダクト上に記録され、再び飾ることができるような機能をつけたいと思っています」(荻野氏)

「今後は様々な企業とコラボしたり、実際に触れてもらえる環境を作っていったりと、Log Flowerを通じていろんな方との出会いや共創をしていければと思っています」(井倉氏)

まとめ

コロナ禍で、家にいる機会が増えた今、今までにはなかったストレスを感じている人も多いことだろう。家族との口喧嘩が増えたという人や、ずっと一緒にいるからこそあまり話さなくなった、という人もいるかもしれない。

そのような世の中の声に気づいて開発されたLog Flowerは、コロナ禍で疲れた私たちの心を癒してくれると同時に、家族や友人、同僚との関わりを考え直させてくれる存在になりうる可能性を秘めている。

筆者がインタビューに伺った「未来のパーツ展 vol.1 感情と花」という展示はすでに終了してしまっているが、本稿公開日の翌日である10月21日から六本木ヒルズで3日間行われているイベント「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022」でLog Flowerが再び展示される。もし、本稿を読んでデジタル植物や感情で育つ花に興味を持たれた方は、ぜひイベントに足を運んで「未来の観葉植物」を体験してみてはいかがだろうか。