コロナ禍でどこかへ移動する際に何かと制限を受けるようになった今。飛行機や新幹線などの交通手段を用いた旅行や出張を控えているという人も少なくないのではないだろうか。実際に、修学旅行などの宿泊行事がオンラインに変更された学校や、社員旅行が中止になった企業も多いという。
今回は、そんな中で新しい「移動手段」の開発に力を入れているavatarinを紹介しよう。avatarinはANAホールディングス発の初めてのスタートアップ会社として設立され、「飛行機を用いたプレミアムな移動手段とは異なり、アバターを活用したライトな移動手段で気軽にさまざまな場所を訪れることができるサービス」として新たな移動手段の開発を進めている。今回は、avatarinの提供するサービスや新たな移動の可能性について、代表取締役CEO深堀昂氏に話を聞いた。
何歳になってもどんな状況でも移動できるプラットフォーム
会社名にもなっている「avatarin」とは、既存移動手段の課題として考えられる環境負荷、身体的負荷、コスト、距離的制約、時間的制約、精神的ストレス、インフラ整備、外的要因、衛生リスク、国交などを解決すべく考えられた新たな移動サービスだ。体を移動させず人の意識と存在感のみを伝送し、リアル空間を検索して瞬間移動することができるプラットフォームとして活用されているという。
そしてその「avatarin」の実現のために活用されているのが「newme」だ。
「newme」は、「avatarin」プラットフォームを介して、体を移動させずに人の意識と存在感を伝送する新たな移動手段。移動したい場所にあるnewmeを選択することで、見て、話して、歩き回ることができ、既存のビデオ通話やWeb会議システムとは異なり、自分の意思で好きなタイミングで遠隔地の空間を動き回れることが特徴のコミュニケーションツールとなっている。
深堀氏は、この「newme」を活用した新たな移動手段の開発の経緯について、次のように話す。
「これまでの移動は『体を移動させること』が当たり前でした。私自身、元々飛行機が好きでANAに入社しましたが、働いている中で、『限られた人だけが移動できるのではいけないのではないか』という考えにたどりつきました。何歳になっても、どんな状況でも移動できる、そんなプラットフォームを作りたいと考えたのがこのnewmeを開発したきっかけになりました」(深堀氏)
コロナ禍で旅行などに行きにくい世の中だが、実際に移動せずとも観光名所が体験できるサービスとして「アバターインを体験しよう」を展開しており、地方の水族館や美術館を「newme」で散策することができるという。 実際に「どんな状況でも移動できる」という深堀氏の思い描いたプラットフォームが少しずつ実現に近付いているのかもしれない。
活用の場はお葬式にも? 若者離れが進む地方自治体をDX
現在では、このサービスは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)ツールとして活用されているほか、地方自治体などに導入され自治体DXの推進に役立てられているそうだ。
日本の抱える大きな課題として「少子高齢化問題」があることは万人の知るところだが、この問題は若者離れが進む地方の方が強い傾向にあるのだという。 そのため、同社はこのサービスによって自治体DXが進むことによって自治体の可能性を広げていくことも目指している。
「地方自治体がnewmeを活用した例を挙げると『お葬式への参列』があります。実際に高齢者や入院しているなど、実際にお葬式に参加したくてもできない人のために、葬儀場とその人をつなぎ、参加を可能にするということも行われています」(深堀氏)
コロナ禍でオンライン化が進み、さまざまなことをオンラインで行うことに抵抗がなくなった今。このサービスの普及によってリアルの移動は淘汰されていくのだろうか?
「この新しい移動手段の開発は、『リアル空間の価値を上げる』という意味合いもあります。いくら話を聞いても自分で見たことがなければその土地のイメージをすることができないことから、『その土地に行ったことがない人の可能性を広げる』ためにこのサービスが利用されると良いと思います」(深堀氏)
最後に、深堀氏に今後の展望を聞いた。
「持続可能な未来を作る上で新しい移動手段はとても大切な役割を持っていると思います。旅行や買い物などに活用してもらいたいのはもちろんですが、日本という災害大国に住み続けることを考えると、災害時にも活躍できるサービスでありたいです。また、本当の意味で『行けない場所に行けるようになる』ためには、宇宙などに気軽に行けるようなサービスでなければならないと思っています」(深堀氏)
怪我や病気、乗り物酔い、金銭的な理由などさまざまな理由で旅行を諦めている人は多く存在するのではないだろうか。もちろん、コロナ禍もこの理由の一つだ。
しかし、これからはさまざまな要因で諦めずに、家にいながら旅行先まで移動できる、そんな世の中になるかもしれない。