米国商務省産業安全保安局(BIS)による対中半導体貿易規制は、これまで中国市場でビジネスを行っている米国企業を輸出規制の対象にしてきた。しかし、10月7日に発表された新たな規制では、米国人個人に対しても規制がかけられることとなった。

新規制の第7項に「Restricts the ability of U.S. persons to support the development, or production, of ICs at certain PRC-located semiconductor fabrication “facilities” without a license(米国人(=米国市民権や永住権を有する者も含む)がライセンス(米国商務省産業安全保安局による許可)を受けずに中国国内の半導体製造施設で開発や製造を支援する能力(=行為)を制限する(=事実上禁止する))」という米国人に関する記述が盛り込まれた。

このため、YMTCをはじめとする中国半導体企業において米国からの出張ベースで新規装置立ち上げや既存装置の保守点検サービスを提供してきた米国の3大半導体製造装置メーカー(Applied Materials(AMAT)、Lam Research、KLA)の米国人従業員が相次いで引き上げを開始していることが報じられていたが、この規制を受けて、中国の半導体メーカーや装置メーカーに勤務する多数の米国人(多く中国系米国人)が「退職して米国に帰国する」か、あるいは「米国籍を捨てて勤務を続けるか」の選択を迫られていると複数の海外メディアが報じている。

YMTCはじめ中国の半導体メーカーには多数の米国人(多くは中国系米国人)が高い地位で研究開発職や管理職として勤務しているが、その多くは中国生まれであり高校あるいは大学卒業後、米国に留学して博士号を取得し、米国の市民権あるいは永住権を得て米国半導体企業や装置メーカーに勤務経験のあるベテランである。NANDメーカーのYMTC、DARMメーカーのCXMT、スーパーコンピュータ用の半導体チップを研究開発する国家上海集成電路研発中心(国立上海集積回路R&Dセンター)など、多くの大手企業に所属するほとんどの米国人従業員が離職して米国へ帰国するという。米国に家族を置いていたり、資産や財産を所有している場合が多く、いったん米国籍から離脱し中国籍になると、再び米国籍を取得することは米中デカップリングの状況下では極めて困難な状況だからだという。中国半導体企業は米国籍の従業員数を公表していないため、数量的なデータは得られていないが数百人規模と言われている。

中国半導体製造メーカーの従業員は?

香港の日刊紙South China Morning Postによると、CVD、PVD、エッチング、拡散炉、洗浄装置など幅広い製品を手掛ける中国の半導体製造装置メーカー大手である北方華創(Naura Technology Group)では、米国籍の研究開発要員が新しい製造装置の開発を担当してきたが、今は開発業務の従事を停止しているという。こちらも同様に米国籍を捨てるか米国に帰国するかの選択を迫られている模様である。またNauraの子会社であるBeijing Naura Magnetoelectric Technologyは米国商務省の未検証リストに載っているが、Nauraは子会社の売り上げが年間総収入の0.5%しか占めておらず、Naura自体はリストには掲載されていないと述べている。

中国メーカー経営者の米国人の場合はどうなるのか?

一番大きな問題は、中国半導体メーカーや装置メーカーの経営者の多くも中国生まれの米国人(米国の国籍所有者)であり、彼らの身の振り方である。Nauraの経営陣には米国籍の者はいないようだが、例えば、急成長を遂げている中国の半導体エッチング装置メーカーである中微半導体設備(AMEC)の創業者兼会長のGerald Yin氏および経営陣や主任研究者の多くは米国籍である。中国生まれのYin氏は、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)にて物理化学分野の博士号を取得後、IntelやAMATに述べ20年ほど勤務経験があり、米中両国の事情に明るいベテランである。北京に本拠を置く半導体ファブレスのGigaDeviceの副会長はじめ経営陣には米国のパスポート保持者がいるという。上場して経歴が開示されている中国の半導体および関連企業の経営陣の多くが米国に帰化し米国市民権を持っており、米国の企業に長年勤務した経験を生かして生まれ故郷の中国で起業したケースが目立つ。もちろん、米国籍を持ったまま、中国で半導体関連企業を経営するために米商務省にライセンス申請はできるが、同省原則的に許可しない方針である(商務省では「否認の推定に直面することになる」と表現している)ので、米国が必需品とする製品を製造してでもいない限り許可されないだろう。米国半導体関連企業の米国籍経営者の身の振り方に中国業界の注目が集まっている。