京都大学(京大)は10月11日、「トポロジカル量子物質」の一種である「ワイル半金属」を用いて、約23度という室温においてスピン情報を電気的に生成・計測できる素子を実現したことを発表した。
同成果は、京大大学院 工学研究科 電子工学専攻の大西康介大学院生、同・白石誠司教授、名古屋大学大学院 工学研究科の竹延大志教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、10月中に「Advanced Electric Materials」に掲載される予定だという。
トポロジーは「不連続な指標は変形によって変化しない」という図形の持つ「不変な」指標に着目することを言い、日本語で「位相幾何学」とされ、もともとは数学の一分野だが、そこから物理にも波及し、現在では両分野において重要視されている。
物質科学におけるトポロジー的な性質もまた、物質の状態が連続的に変化しても、その変化に影響されない「不変な」指標を与えてくれるというものだという。この観点から、近年「トポロジカル絶縁体」や「トポロジカル超伝導体」などが、世界的に研究されており、今回研究チームによって対象とされたワイル半金属も、そうしたトポロジー的な性質を持つ材料である。
こうしたトポロジカルな特徴を持つ物質では、その物質の電子状態の捻れに由来するスピン構造や、エネルギー散逸のない情報伝搬性を活かした超低消費エネルギー演算などが理論的に可能であり、スピン演算において取り扱うために適した電気的手法により、スピン情報を生成・計測する技術開発が求められていたという。
そこで研究チームは今回、ワイル半金属「タングステンダイテルライド/二テルル化タングステン(WTe2)」に着目することにしたという。同材料は、グラフェンなどに代表される、原子1層がほぼ平坦に結合している「2次元(原子層)物質」でもある。同材料では、過去に原子層平面に対して平行方向のスピン情報を持つことができるという報告がなされていたが、その存在は極低温の絶対温度約15K(約-258℃)で消失してしまっており、熱に対して弱いことが課題だったという。