今回の研究では、「あかつき」の観測から得られる水平風速データをALEDAS-Vに用いて、大気大循環モデルへの同化が行われた。観測データは時空間的に偏りがあるが、これを同化することで全球にわたる客観解析データが作成された。

  • 金星気象データセット

    あかつきの観測データとAFES-Venusの数値シミュレーションの予報データを同化することにより、金星大気のより「確からしい」状態を時空間的に再現したデータ(客観解析データ)が得られた (出所:慶大プレスリリースPDF)

また、この客観解析データが調べられたところ、観測されている惑星規模の大気波動(熱潮汐波)を全球的に正しく再現していることが確認されたという。熱潮汐波は大気大循環モデル単体では再現が難しかった現象であり、これが再現されたことは今回の研究の客観解析データの妥当性・有用性が示されていると研究チームでは説明する。なお、データ同化には膨大な計算が必要になるが、研究チームでは、海洋研究開発機構のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いることでこれを実現したとしている。

  • 東西風速の高度70kmにおける現地時刻緯度断面図

    東西風速の高度70kmにおける現地時刻緯度断面図。(a)あかつきの観測結果。(b)同化なしの大気大循環モデルの結果。(c)同化によって得られた客観解析データ。同化することによって、客観解析データは観測結果に近い形に改善されている。また、観測データのない高緯度や夜面にもデータ同化の影響が広がっているという (出所:慶大プレスリリースPDF)

金星大気には、近年の「あかつき」などの観測データの分析により、熱潮汐波のほかに、ロスビー波やケルビン波といった時空間的にさまざまな惑星規模波動があることがわかってきている。また、周極低温域やスーパーローテーションといった金星特有の持続的構造も時間空間的に変動していることの理解も進みつつある。

こうした現象の分析には、風速・温度・気圧場の関係性を詳しく調べる必要があり、時間空間的に限られた観測データだけでは不十分だという。数値モデルの不確実性と観測データの間欠性とを補い合う今回の研究成果は、観測データと数値モデルの両方を最大限に活用でき、金星大気の運動を解明する新たな糸口となる可能性があると研究チームでは説明しており、今後、大気スーパーローテーションの成因が解明されるなど、金星大気内部の運動の理解が大きく進むことが期待されるとしている。