実験の結果、波長2μmの直線偏光のプローブ光の偏光方向が回転することが確認された。これは、逆ファラデー効果がパルス幅100フェムト秒の瞬間のみ発生することを示すものであるとするほか、磁化を反映する偏光回転である「ファラデー回転」の大きさは、典型的な反強磁性体の酸化ニッケルに比べて20倍ほど大きいことが確かめられたともする。

それに加え、今回の実験では、光磁化が低エネルギー側に向かって増加する際の形状はスピン軌道励起子のスペクトルに符合したことから、光磁化がスピン軌道励起子を光励起することによって生じることも判明。光磁化は、反強磁性体が磁気モーメントを失うネール温度より高温で15%程度増大するが、このような温度依存性は、α-RuCl3の光磁化が逆ファラデー効果とはまったく異なる機構によって生じていることを示しているという。

  • 量子スピン液体における光磁気効果の模式図

    (左)量子スピン液体における光磁気効果の模式図。(右)逆ファラデー効果による光磁化の発生とそのファラデー効果(偏光回転)による観測 (出所:東北大プレスリリースPDF)

また、磁化の発生とともに電荷の状態も大きく変化していることがわかったものの、磁化や電荷の変化はあまりにも速く、幅100フェムト秒のパルスでも追跡できないほどだとする。そこで今回の研究では、研究チームで開発した幅6フェムト秒という極めて短い赤外パルスを用いて、電荷がどのような変化を起こしているのかの調査を実施。そうして得られた結果と理論解析により、α-RuCl3において観測された光磁化は、電荷の運動によることが判明したとする。

研究チームでは、この仕組みについて、従来の逆ファラデー効果のようなスピン状態の変化によるものとは本質的に異なるものだとするほか、この極限的な赤外短パルスを用いて測定された反射率変化の時間発展は、振動成分を含んでいたともしており、こうした時間軸上の振動は、しばしば格子振動によって生じるが、この場合の観測された時間軸振動は、電子が波動関数の位相をそろえて時間軸上で振動する「電荷のコヒーレント振動」を反映している可能性が示唆されたとする。

さらに、100フェムト秒以下という光磁化の寿命は、サイト間の電荷移動のコヒーレンスが失われる時間と符合したとのことで、このことは光磁化が電荷のコヒーレントな運動によって生じているという解釈を支持するものだともしている。

また、電荷、スピン、軌道の量子力学的な効果を取り入れた理論解析から、異なる方向を向いたd軌道間の電荷の量子力学的な移動によって、磁化が発生することが明らかになったが、この機構については、スピン磁気モーメントではなく、軌道磁気モーメントによって磁化が生じるという意味で、新規なものだとしている。

なお、研究チームでは、今回の結果から、反強磁性体、弱強磁性体以外の物質でも室温下の超高速光磁化が予想できるというしており、今後、光磁気メモリ、磁気ヘッドなどの高速操作が可能となる点で社会的な波及効果が期待できるとしている。