試験は無事に成功

ZEROのターボポンプの開発は、ISTのほか、室蘭工業大学と荏原製作所の共同で進められている。

室蘭工業大学はロケットエンジンの燃焼系、ターボ系に関する豊富な研究実績をもち、2019年度からISTと共同でターボポンプの研究を行っていた。

荏原製作所はポンプ製造国内最大手の企業で、2020年に実施した社内公募制の新規ビジネスアイデアコンペティションから航空宇宙事業への参入を決定。そして2021年9月から、室蘭工業大学内にロケット開発を産学連携で推進する拠点「宇宙プロジェクト共創ラボラトリ」を開設。3者によるターボポンプの共同開発を開始した。

ターボポンプの中には、インデューサー、インペラー、タービン、軸受、シールなど、たくさんの要素が入っている。これまでに個々に試験しているものもあり、たとえばインデューサーについては、すでに単体での試験を実施し、性能が確認できているという。

今回の試験は、実機と同じサイズ、設計で製作した、液体酸素側のインデューサー、インペラー、シャフトを組み合わせた初の試験だった。また、液体酸素の代わりに水を流す形で行われた。

また、3機関のメンバーが集結し、それぞれが役割を分担しながら実施する初めての本格的な試験となった。

この日、11時過ぎから行われた試験は、ISTの技術者など関係者が見守る中、無事に成功。必要なデータを取得できたという。

ターボポンプの水流し試験の様子 (撮影:渡部韻)

試験後、金井氏は「開発している3機関が初めて合同で行った本格的な試験。無事にうまくいってよかった」とコメントした。

また、室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究センター長・教授の内海政春氏は「ターボポンプはロケットの心臓部。これまでの設計段階から、実際に回転する段階になり、『いよいよ心臓が動き出したな』と感じた。これからまだ山は残っているが、第一歩を踏み出したことが大きい。ZEROの打ち上げに向け、ますます開発を加速させていきたい」と語った。

そして荏原製作所の向江洋人氏は「重要なステップを迎えることができてうれしい。弊社の持つ回転機械技術を活かし、ZEROの打ち上げに向けて貢献していきたい」とコメントした。

今回の試験では、タービンの代わりに電動モーターによって回転軸を駆動。回転数は4000rpmだった。ただ、実機で同じ回転数ということではなく、6000rpmや8000rpmなど、回転数を変えてデータを取っていくという。また、実際のロケットで使うタービンについても、数値解析を行っている段階にあるという。

内海氏は「今後は、液化メタン側のポンプの要素の試験をやったり、タービンも含めたターボポンプ全体の試験をやったりしていく」と語る。

試験後の会見の様子。右から、ISTの金井氏、室蘭工業大学の内海氏、荏原製作所の向江氏 (撮影:渡部韻)

初打ち上げは2023年度の予定、新たな市場を開拓へ

ZEROの初打ち上げは2023年度の予定で、発射施設の建設計画も動き出している。

ISTがZEROで目指すのは、超小型衛星の打ち上げ市場の開拓である。

近年、衛星の小型化、低価格化が進み、そうした衛星を使ったサービス、ビジネスも活発になっており、今後その数はますます増えると予想されている。

しかし、そうした超小型衛星を打ち上げるためのロケットは世界的に不足しており、また大型ロケットに超小型衛星を複数搭載して打ち上げる相乗り形式が主流となっている。

つまり、超小型衛星を単独で、顧客が打ち上げたいときに打ち上げたい軌道に向けて打ち上げられるロケットはまだ選択肢が少ない。

ZEROはまさに、その市場を開拓し、そして他のロケットよりも安価に打ち上げることを目指している。

それを実現するため、コア技術を自社で開発するほか、設計から製造、試験・評価、打ち上げ運用までを自社で一気通貫させた開発体制、アビオニクス(電子装置)への民生品活用などにより、1機あたり6億円以下という圧倒的な低価格化を目指している。

米国ではすでに、ロケット・ラボ(Rocket Lab)をはじめ、ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)、アストラ(Astra)といった企業が超小型ロケットを運用している。さらに世界に目を向ければ、超小型ロケットを開発中の企業は数多く、数年以内に相次いで打ち上げを狙っている状況にある。

ZEROの研究・開発はMOMOと並行して行われてきており、MOMO 1号機が打ち上がる前の2016年ごろからすでに始まっていたという。その後、2020年から始まった室蘭工業大学との共同研究から本格化した。

稲川氏は「最近いろんな製造、試験が同時並行で進んでいる。今年から多くの試験が始まろうとしている。その試験の様子は、できる限り、見ていただける機会をつくっていきたい」と話す。

同社はオープンなロケット開発を志向しており、これまでもMOMOの試験の過程から、打ち上げ失敗時のさまざまな映像まで、他のロケット会社は見せないようなところも広くオープンにしてきた。ZEROでもその方針が踏襲されるということで、これからロケットが徐々に形になり、発射台に立ち、そして宇宙へ飛び立つまで、その一挙手一投足をつぶさに見ていくことができるだろう。

北海道の地から、宇宙へ、そして世界へ飛び出そうとしているZERO。その鼓動が、たしかに鳴り響き始めた。

  • 超小型衛星打ち上げロケット「ZERO」

    飛翔するZEROの想像図 (C) IST

ISTの事業の展望、ZEROの開発状況について解説するIST代表取締役社長の稲川氏