インターステラテクノロジズ(IST)は4月16日、北海道・大樹町において、超小型衛星用ロケット「ZERO」の6トン級エンジンを使った燃焼試験に成功したと発表した。同社はすでに、ZEROでは燃料をこれまでのエタノールからLNG(液化天然ガス)に変更することを明らかにしていたが、天然ガスを使った燃焼試験を大樹町で行ったのはこれが初めて。

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    北海道・大樹町の自社設備で行った燃焼試験の様子 (C)IST

同社は2019年5月、観測ロケット「MOMO」3号機において、日本の民間としては初めて、高度100kmの宇宙空間へ到達していた。MOMOのエンジンが推力1.2トンであったのに対し、現在開発中のZEROでは6トンにパワーアップ、さらに複数台を束ねることで、100kgの超小型衛星を軌道投入できるようになる見込みだ。

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    ZEROのイメージCG。第1段エンジンが複数であることが分かる (C)IS

燃料に加え、ZEROのエンジンで大きく変わることになるのが、燃焼室の冷却方式である。エンジン内の燃焼ガスは数千℃という高温になるため、何も対策しなければエンジンの金属構造が溶けて強度が失われてしまう。

MOMOで採用していたのは「アブレーション方式」と呼ばれるものだ。これは、燃焼室の内壁に耐熱材料(アブレータ)を用い、外側の金属構造に熱が伝わるのを抑えるシンプルな方式であるが、燃焼中に少しずつ損傷していくため、燃焼時間がより長くなるZEROでは厚く・重くする必要があり、使いにくいという問題があった。

ZEROでは、これを「再生冷却方式」に変更する。ZEROの燃料であるLNGは、マイナス162℃という極低温の液体。燃焼に使う前に、まずは燃焼室の壁面に通し、冷却することで、アブレータが不要になる。液体水素を燃料とするH-IIA/Bロケットなど、ほかの多くのロケットでも一般的に採用されている方式である。

再生冷却方式のエンジンを設計するためには、まず燃焼室のどの部分がどれだけ熱を受けるのかというデータ(壁面熱負荷特性)が必要。同社はこのための試験を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の角田宇宙センターで実施していた。角田での試験について、詳しくは参照記事を読んで欲しい。

参考:【動画あり】IST/JAXAの共同研究現場に潜入、角田宇宙センターで何してる?

今回、同社は大樹町の射場にZERO用の燃焼試験設備を開発。最初にアブレーション方式のエンジンを使い、試験設備の動作確認、エンジンの始動・停止手順の確立を行った上、次に水冷式のエンジンによる燃焼試験を複数回実施した。

アブレーション方式のエンジンによる燃焼試験

水冷式のエンジンによる燃焼試験

今回のエンジンはまだ再生冷却ではなく、水を流し込んで燃焼室を冷却して、そのまま排出するというものだったが、機器に溶損などの問題はなく、良好なデータが得られたという。同社は今後、水冷式エンジンの燃焼試験でデータを蓄積し、再生冷却エンジンの実現に繋げていく考え。

冷却システムを備えた6トン級エンジンの燃焼試験に成功したことで、「ZEROのエンジン開発に大きく前進した」(同社)と言える。再生冷却を実現したあと、最終的にはさらにターボポンプと組み合わせた燃焼試験も必要となるが(今回は燃料と酸化剤はガス押しで供給)、引き続き今後の進捗に注目していきたいところだ。