東北大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、神戸大学、東京工業大学(東工大)、早稲田大学(早大)、パリ-サクレー大学、フランス国立化学研究センターの7者は3月2日、六方晶系の二次元物質「グラフェン」と正方晶系の鉄とパラジウムの規則合金「L10-FePd」の結晶系の異なる界面(異種結晶界面)を、ファンデルワールス力により“しなやか”に結合させ、かつ界面電子密度の増加により“強い”混成軌道を誘起させることに成功したこと、ならびにグラフェン/L10-FePdの異種結晶界面の原子位置を正確に決定することに成功したことも併せて発表された。

同成果は、東北大 国際集積エレクトロニクス研究開発センターの永沼博准教授をリーダーとする13名からなる国際共同研究チームによるもの。詳細は、ナノサイエンスとナノテクノロジーの全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

年々増加する情報機器における消費電力量の低減に向け、MRAMの活用が期待されているが、その一方で次世代となるXnm世代向け強磁性トンネル接合(MTJ)素子の実現を目指した研究も並行して進められている。近年、そうした研究が進められている材料の1つとして、高結晶磁気異方性を有する「L10規則合金」があるが、FePt、FePd、CoPt、MnGaなどのL10規則合金とMgOトンネル障壁は結晶格子の大きさが約10%ほど異なるため、界面構造が乱れて高品質なMTJ素子を作製できないことが課題となっていたという。

今回の研究では、そうした課題の解決方法として、二次元物質の間に生じるファンデルワールス力に着目することにしたという。二次元物質はファンデルワールス力により金属と緩やかに結合するため、強い化学結合による格子不整合の影響を回避して、平滑な界面を形成する可能性が期待されており、中でもグラフェンやh-BNなどがXnm世代のMTJ素子に求められる要求の多くを満たしているという。

今回は、代表的な二次元物質であるグラフェンをトンネル障壁材料とし、L10-FePd規則合金を記録層とする新しいMTJ素子の開発を試みることにしたという。

量産化プロセスを念頭にして製膜され、真空プロセスを活用し、結晶方位の揃ったL10-FePd膜がSrTiO3単結晶基板上に製膜した後、グラフェンを成長させることでグラフェン/L10-FePdを作製。グラフェンはハニカム構造の六方晶、L10-FePdは正方晶の結晶系であり、グラフェン/L10-FePdは異種結晶系により界面(異種結晶界面)が形成されており、この界面構造を調査したところ、異種結晶界面をファンデルワールス力によりしなやかに結合させ、かつ界面電子密度の増加により強固な混成軌道を誘起させることに成功したという。

  • 異種結晶界面の結合

    (a)走査型透過電子顕微鏡像(BF/ABF/HAADF-STEM像)を用いてグラフェン/FePdの軽元素であるカーボンと重い元素であるFeとPdが同時に観察された。(b)第一原理計算から、最もエネルギー的に安定な原子位置を基にして、STEM像をシミュレーターにより再現された。(c)第一原理計算から算出されたFePdとグラフェンのカーボンとの原子位置関係の概念図 (出所:東北大プレスリリースPDF)

また、界面付近の磁気状態調査から、界面垂直磁気異方性が出現していることが判明したほか、直接観察実験と理論計算の両方からグラフェン/L10-FePdの異種結晶界面の原子位置を正確に決定することにも成功したとする。

  • 異種結晶界面の結合

    (a)偏光した軟X線を用いた深さ分解XMCDの測定セットアップの模式図。(b)検出深度を0.25nmから2.5nmまで変更したXMCDスペクトル。(c)界面。(d)内部層の右回りと左回りの円偏光によるXASスペクトルと、その差分であるXMCDスペクトル (出所:東北大プレスリリースPDF)

なお今回の研究は二層構造のため、実際のMTJ素子構造としたときの特性を今後は調べていく必要があると研究チームでは説明しており、現在は日仏共同研究を主軸に国内とも綿密に連携を取りながら、研究を進めているとしている。また、グラフェンに見られるファンデルワールス力のしなやかでありながら強固な性質はほかの二次元物質にも現れることから、h-BN、WS2などの多彩な物性と正方晶系の高機能金属、酸化物などの異種結晶界面をファンデルワールス力でつなぐことにより、新しいデバイスへの発展が期待されるともしている。