TSMCが1月13日に開催した2021年第4四半期および2021年通期の決算説明会における、機関投資家(証券会社)との質疑応答の席で同社のMark Liu会長は、熊本にソニーと合弁で建設予定のJapan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)前工程ファブは、主な顧客であるソニーのほか、他のファブ同様、世界中の企業からの製造受託に応える拠点であると述べた。同社が公表した決算会見の書き起こし文章から、当該部分を紐解いてみたい。

ソニーとの合弁にした理由

質問者はLaura Chen氏(KGI証券株式会社、研究部門-リサーチアナリスト)。「TSMCの海外展開について質問があります。TSMCは、日本の場合と同様にヨーロッパでも(単独事業ではなく)合弁事業を検討していますか? それとも100%所有の事業の方が好ましいと考えていますか?」(カッコ内は筆者の補足)。

この質問の回答者はMark Liu氏(TSMC会長)。「ヨーロッパへの工場進出については評価検討中ですが、まだ非常に初期の段階にあります。海外でファブを始めるためには、考慮しなければならない事項がたくさんあります。その中で、まず一番大切なことは顧客のニーズです。確かに、私たちは長年にわたり合弁事業を行っていませんでしたが、日本のファブは現在の計画では合弁事業となっています。ですから、この日本での合弁事業は特別な例外的なケースです。通常は、すべてのTSMCファブは、設置場所に関係なく、世界中のすべての顧客にサービスを提供します。そして、この日本の合弁企業の場合も同じです。ただし、日本には、非常に大きな顧客が一社あります(筆者注:ソニーセミコンダクタソリューションズと思われる)。単一技術を使用しており(筆者注:CMOSイメージセンサ技術を指すとみられる)、私たちはその工場運営や製造経験を活用することができます。これは、学習曲線の立ち上がりを早めるのに役立ちます。そこで、そのファブをソニーとの合弁会社として運営することに決めました。ただし、その合弁会社のシェアのほとんどを私たちが握っています(筆者注:ソニーのシェアは2割未満)。したがって、これは特殊なケースです。だから、我々は100%単独出資によるファブの100%所有が基本であると考えています」

日本政府による補助金支給の要件

読売新聞が1月11日付けで「日本政府は、国内に建設する半導体工場に補助金を出す際の要件として、企業に少なくとも10年間の継続的な生産を求める方針を固めた」という内容の記事を報じている。政府は補助金支給のハードルを上げることで国民の理解を得たい考えだという。

10年間の継続的な製造は当然のことであってハードルを上げたことにはならないだろう。本来なら、(投資主のソニーはともかく)日本企業の注文を優先するといった条件をつけたいところだが、TSMC側が自社方針に相いれないとして飲まなかった可能性が高い。この件に関しては、先だって元経済産業省官僚の古賀茂明氏がいくつかのメディアでその懸念を指摘していた。

熊本ファブで活用されるスペシャルティーテクノロジーとは?

また、TSMCのCEOであるC,C. Wei氏は、熊本ファブに適用される予定の28nmプロセスについて、機関投資家の質問に答える形で、「28nmでの長期的な需要は、CMOSイメージセンサや不揮発性メモリやその他のスペシャルティーテクノロジーによってサポートされている」と述べている。同社の日本語による定義によれば、スペシャルティーテクノロジーとは、CMOSイメージセンサ、MEMS、不揮発性メモリ(組み込みフラッシュ、組み込みMRAM、組み込みReRAMなど)、RF、Analog、高耐圧、BCD(バイポーラ・CMOS/DMOS)などを指しており、車載プロセッサなどで用いられる汎用的なロジックCMOSプロセスではないことに注意が必要である。