東北大学と東京大学(東大)は1月5日、電子スピンを駆動力とするナノモーターを提案し、その駆動メカニズムに関する量子論を構築したことを発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科の泉田渉助教、明治大学理工学部の奥山倫助教、仙台高等専門学校 総合工学科の佐藤健太郎准教授、東大物性研究所の加藤岳生准教授、中国科学院大学カブリ理論科学研究所の松尾衛准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する主力学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

近年、微細加工技術の発展に伴い、カーボンナノチューブ(CNT)などのナノマテリアルを用いた、ナノスケールの機械運動の制御に関心が集まっている。たとえば、単層CNTを入れ子構造とした二層CNTは、内と外のCNTがファンデルワールス力によって弱く結合していることから、層間の距離を保ったまま内側もしくは外側のCNTだけを容易に動かすことが可能である。これは回転子と見なせるため、この構造をナノモーターに利用する提案がなされている。しかし、それに対してこのナノモーターをどのような動作原理でもって駆動させるのるかに関する研究は、これまでほとんどなされていなかったという。

そこで研究チームは、電子の持つミクロな角運動量であるスピンと、マクロな物体の回転運動が相互変換される現象として理解され、磁石の持つ磁気量を変化させると、その変化分に応じて回転運動が生じたり、磁石を回転させると磁気量が変化したりする現象である「磁気回転効果」に着目。今回、磁気回転効果による回転運動への変換を電流によって連続的に行う構造として、強磁性金属を電極とする構造と、CNTを組み合わせる構造を提案し、これにより電子スピンを駆動力とするナノモーターを実現できるとする。

具体的な構造は、強磁性電極は磁化方向の異なるものを1つずつ用意し、それをCNT回転子でつなぐというもので、電極間に電圧を印加すると、一方の電極から偏極した電子スピンがCNT回転子に注入され、注入された電子はCNT回転子内における磁気回転相互作用により、そのスピンの向きを反転させるとともに回転子に角運動量を受け渡し、スピンの向きが反転した電子はその偏極と同じ方向に偏極したもう一方の電極へと抜けるという流れを構築。この過程を繰り返すことで、回転子は角運動量を注入電子スピンより獲得し、回転運動が誘起されるという。

実際にこの回転駆動シナリオの確認のため、電子スピンからCNT回転子への角運動量移行に関する量子論を展開したところ、CNT回転子は回転軸がぶれない「眠りコマ回転運動」のほかに歳差運動を行うことが判明。このうち、歳差運動から眠りコマ回転運動への緩和過程が存在することが、安定な回転状態である眠りコマ回転運動が実現するために重要な役割を果たすことが見出されたとした。

なお、今回の研究から明らかとなった駆動機構は、CNTに限らず、小さな物体を回転駆動させる技術に広く応用可能であることから、超小型ロボット向け微小機構の回転駆動に関する新たな技術につながることなども期待されるとしている。

  • ナノモーター

    今回の研究で提案された、電子スピンの注入により回転駆動するナノモーターの概略図 (出所:東北大プレスリリースPDF)