京都大学(京大)、科学技術振興機構、量子科学技術研究開発機構(量研)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の4者は12月14日、酸化グラフェン(GO)膜にナノダイヤモンド(ND)を組み込むことで、水素のみを透過させる物理的なフィルター機能を保ちながら、最大の課題だった耐湿性を向上させることに成功し、実用化に向けて前進したと発表した。

同成果は、京大 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)のシバニア・イーサン教授、同・べナム・ガリ特定准教授、同・杉本邦久特定准教授(JASRI 主幹研究員兼任)、量研 量子生命・医学部門 量子生命科学研究所の五十嵐龍治グループリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエネルギー全般を扱う学際的な学術誌「Nature Energy」に掲載された。

本格的な水素社会の実現に向けて、水素の安価かつ安定した供給の実現のために、エネルギー効率の高い水素製造プロセスの開発が求められている。現在、水素を製造する主な手段は、化石燃料の水蒸気改質プロセスだが、この製造工程では、改質時のみならず、改質後の混合ガス(水素、二酸化炭素)の分離・精製などにも多くのエネルギーを消費してしまうことが課題となっているほか、そうした改質プロセスでは金属系膜、多孔質無機膜、高分子膜などが用いられるが、膜の価格、分離性能の低さなどのため、低価格で高純度な水素製造には至っていないという実情がある。

その解決策として近年注目を集めているのが、二次元膜材料を使った物理的な水素分離技術で、中でも、GOナノシートを積層・圧縮することで作製されるGO分離膜は、CO2や酸素を含む多くの混合ガスから水素を分離する能力が高く、工業的に使用されている高分子膜の10倍ほどの分離ポテンシャルを有していることが知られているため、活用が期待されるようになっている。しかし、GOナノシートは水との親和性が高いため、これまでのGO分離膜は水に弱いという課題があったという。

この課題解決に向け、GOナノシート間を化学的に連結することで耐湿性を向上させる技術が考案されたが、この方法では、水素フィルターの役割を担うナノシート間の空隙距離の制御が困難であるため、本来有していた水素の分離性能が損なわれるという別の課題が生じていたという。

そこで研究チームは今回、ナノシート同士の静電反発が水による膨潤を促進しているのではないかという、従来とは異なる視点に基づく仮説を立て、膜材料設計を実施。その結果、プラスの電荷を帯びさせたNDを導入することにより、狙い通りこれを防ぐことに成功したとする。

  • 水素製造用酸化グラフェン膜

    GOナノシートの原子間力顕微鏡画像。スケールバーは2μm。挿入図は高さプロファイル (出所:京大 iCeMS Webサイト)

実験では、高湿度条件下でガス分離性能の測定を実施。NDを導入していない分離膜では100時間後に透過性が55%、選択性が70%ほど減少することが示された一方、NDを導入した分離膜ではそれぞれ5%、10%しか減少しないことが確認され、GO分離膜の高い水素分離性能を維持したまま、耐湿性を改良することに成功したことが示されたという。

  • 水素製造用酸化グラフェン膜

    GO膜とGO/ND+複合膜の模式図。(a)密に積層したGO膜。(b)GO膜が水分により膨潤し、積層が崩れる。(c)GOの積層を大きく変えずに、ND+を導入した膜。(d)高湿度下においてND+が電荷を打ち消し、GO膜を安定させる (出所:京大 iCeMS Webサイト)

また、すでに工業化されている各種分離膜との水素分離性能の比較が行われたところ、ND導入GOナノシート膜の水素分離性能は、従来膜に比べても高いことが判明したほか、NDの含有量により水素透過性能を制御することも可能で、添加量30%までは、無添加GO膜と同等の選択性を保ったまま透過度を最大4倍程度まで向上できることも確認されたという。

  • 水素製造用酸化グラフェン膜

    GO、GO/ND+膜のガス分離性能。(a)水素(H2)透過率。(b)H2/CO2分離能 (出所:京大 iCeMS Webサイト)

さらに、この材料設計指針はプラスに帯電する性質を持つ材料であれば、ND以外の材料でも適用できることも判明。例として、プラスに帯電させたPolyhedral Oligomeric Silsesquioxanes(POSS)がGOシート間に組み込まれたところ、少し弱いながらも耐水性の向上が確認できたとのことで、今回の成果はGOとNDという特定の材料の組み合わせにおける現象ではなく、より広範囲にわたる材料の組み合わせにおいて応用できることが示されたとする。

なお、今回の技術は、新しい水素製造プロセスの創出につながるのみならず、併産するCO2の高純度回収も同時に達成できるため、CO2貯留(CCS)や資源活用(CCU)への応用も期待できるとしており、これらを併用することで、CO2を排出せずに製造されるクリーンな「ブルー水素」の供給も可能になるとしている。