安全かつ効率的な方法で90Wを超える電力を供給できるPower-over-Ethernet(PoE)は、コネクテッド照明システムの主要な成長推進力となってきました。これを可視光通信(VLC)の利点と組み合わせることで、特定のアプリケーション分野でRFベースソリューションよりも優れたパフォーマンスを提供できる、非常に安全で高性能な屋内測位システムの開発が可能になります。

本稿では、PoEがどのように進化して産業用照明の実用ソリューションになったかを検討し、VLCテクノロジをシステムに追加して測位機能を活用する方法を考察します。

PoE規格(IEEE 802.3xx)

PoE規格は、低電力周辺機器に中央ハブから電力を供給できるようにするために開発されたもので、建物周辺での電気配線工事に付随する複雑さ、費用、およびコンプライアンス問題を解消しました。多くの規格の共通点として、IEEE 802.3xx PoE規格は何年にもわたって進化し、それに伴いより多くの機能と電力の供給が可能になっています。

最初の規格(IEEE 802.3af)は2003年に登場し、IP電話、アクセスポイント、センサなどのデバイスに15.4Wの電力を供給できました。実際には、ケーブル損失のため、各周辺機器で利用可能な電力は13.0W程度です。PoE+としても知られる次の拡張規格(IEEE 802.3at)では最大供給電力は30Wでしたが、損失を考慮して25Wに低減されました。これによってより複雑なデバイスへの電力供給と、タブレットなどの小型機器の充電が可能になりました。

タイプ1とタイプ2の2つの規格も引き続き有効ですが、現行のPoE規格はIEEE802.3btです。2018年に登場したこの規格は、ポートあたり最大60Wを供給できるタイプ3(PoE++)と、使用時に最大90Wまで供給できるタイプ4(高電力PoE)に分類されています。

  • PoE規格の進化

    図1:進化するPoE規格の概要

タイプ4 802.3btの機能はラップトップなどのデバイスを対象としたものでしたが、LED照明の出現により、PoEを介して中規模から大規模のインテリジェント照明システムへの電力供給の可能性も示しています。

PoE照明システムと可視光通信(VLC)

PoE照明には多くの利点があります。主なものは安全性と柔軟性の2つです。PoEバス電圧は設計上DC 60Vの安全しきい値を下回っているため、感電死や火災などのACメイン電源電圧の危険性はシステムから排除されます。必要なハード配線は照明器具への配線だけであり、これは1本の電源およびデータ用CAT5イーサネットケーブルで行います。これにより、壁取り付けスイッチへの引き込み線を含め、電気配線工事の必要(および費用/複雑さ)がなくなります。

イーサネット接続により、照明システムの制御側はローカルネットワークを介してセットアップでき、はるかに幅広い制御オプションが提供されます。

センサは、部屋の占有率に関するフィードバックを提供して電力使用量を改善するとともに、温度と空気の質を制御および統合することができます。壁スイッチによりスリムな環境発電ワイヤレス設計に移行できるため、バッテリーや電源の接続が不要となり、建物内のスペースを簡単かつ迅速に再構成できます。

VLCベースのポジショニングシステム

VLCは、アレクサンダー・グラハム・ベルが1880年代に開発したフォトフォンにまで遡ることができるため、新しいテクノロジではありませんが、可視光を媒体としてデータストリームを伝送する機能は、特に屋内の用途で、注目されています。VLCのアプリケーションとして、ライトベースネットワーキング(Li-Fi)が挙げられます。これは爆発のリスクがある危険区域や、病院や航空機内など繊細な機器がRFベース無線の干渉を受ける可能性がある場所で特に有用です。

もう1つの隠れたアプリケーションは、倉庫やスマートファクトリの周辺に無人搬送車(AGV)を誘導したり、空港、スポーツスタジアム、病院などの大きな建物をナビゲートする際に人々を支援したりできる屋内測位システム用に光を使用することです。この種のポジショニングは、ロケーションベースマーケティングなどのビジネスチャンスも生み出し、目の前にある特別なオファーに消費者の注目を集めることができます。

VLCベースの測位システムは、屋内においてGPSで発見される多くの問題に対処します。GPS信号は十分に建物を貫通しない可能性があり、その場合は壁で跳ね返るのでマルチパス伝播となってシステムが不正確になります。

VLCポジショニング動作はいくぶんGPSに似ています。各ランプには人間の目には見えない周波数で光を変調することによって射出される独自のコードがあります。カメラとアプリを搭載したスマートフォンなどのデバイスは、3つ以上のランプからの距離を三角測量し、30cm未満の精度で位置を計算することができます。

PoEベースVLCシステムの設計

設計を市場に迅速に提供する必要性に加えて、PoEベースVLCシステムの設計者が直面する主要な課題はエネルギー効率とコンパクトなサイズの2つです。onsemiは、インテリジェント照明を含め、多くのアプリケーションでエネルギー効率の高いソリューションの設計に豊富な経験を持っています。

インテリジェントPoEベースの照明ソリューションでは、小さな設置面積にいくつかの高集積デバイスを実装できるため、設計プロセスが大幅に簡素化されます。

  • インテリジェントPoEベース照明システム

    図2:インテリジェントPoEベース照明システム

onsemiの「NCP1095」および「NCP1096」は、IEEE 802.3af/atおよび-3btに準拠した照明ソリューションを保証するPoE-PDインタフェースコントローラです。検知、分類、突入電流制限など、PoEシステムに必要な機能をすべて備えています。どちらも、最大90Wのアプリケーションをサポートし、過電流および過熱保護機能を内蔵しているため、デバイスおよび照明負荷を保護します。

NCP1095は設計の自由度を高めるために外付けのパストランジスタを採用したもの、NCP1096は完全統合ソリューションとなっています。インタフェースコントローラに加えて、onsemiでは高効率でインテリジェントな照明システムに必要なすべての要素が内蔵した「NCL31000」アドバンストライトエンジンも提供しています。このデバイスの鍵となるのは、高帯域幅のアナログ調光とゼロ電流へのPWM調光をサポートする、効率97%の降圧型LEDドライバです。このデバイスは、システムMCUやセンサなどの周辺機器に電力を供給するためのDC/DCコンバータを搭載しており、個別DC/DCコンバータを用意する必要はありません。これにより、設計が簡素化されスペースとコンポーネントのコストが節約されます。

NCL31000は、0.1%の精度と高い直線性での調光機能を備えており、光ベースのポジショニングを含むVLCアプリケーションに適しています。安定したリファレンスにより、LED電流をゼロにする真の調光が可能になり、ゴーストライトのあらゆるリスクが排除されます。電流、電圧、温度などの総合的な診断を正確に測定し、I2C / SPIインタフェースを介してシステムMCUに提供します。

まとめ

LED技術による低消費電力のインテリジェント照明と、PoE規格の継続的な進化により、使用時に90Wの電力を利用できるようになったことで、多数の(そして高価な)電気配線なしで高度な照明システムを構築することが可能になりました。

これらのシステムはどこでも利用できますが、鉱山やオイル/ガスプラットフォームなどの危険区域内、高湿度環境、そして病院や航空機内などに設置された敏感な機器に近い場所では特に有用です。

onsemiでは、効率的なパワーソリューションやLEDドライバにおける長年の経験を活かし、実績のある高効率かつ高度な統合ソリューションを提供することで、設計作業を減らし、照明ソリューションをより早く市場に投入することをサポートしています。

著者プロフィール

Mike Sandyck
onsemi
Product Marketing Manager