東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)や京都大学、広島大学などの研究チームは12月9日、東京大学 木曽観測所の1.05m木曽シュミット望遠鏡に搭載された「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)」カメラを用いた観測により、Ia型超新星「Tomo-e 202004aaelb(SN2020hvf)」の爆発から5時間以内にパルス状の閃光が現れる様子を捉えることに成功したこと、ならびに京都大学岡山天文台のせいめい望遠鏡を用いた観測により、今回観測されたIa型超新星が、通常のものより明るい特異なIa型超新星であることを突き止めたこと、それらのデータをもとにシミュレーションによる解析を行い、爆発した白色矮星の周囲に存在した大量の物質と超新星爆風が衝突したことで初期閃光が生じたことを明らかにしたなどを発表した。

同成果は、Kavli IPMUのジャン・ジアン特任研究員、京大大学院 理学研究科の川端美穂研究員、同・前田啓一准教授をはじめとする、東大、京大、広島大学、国立天文台、東北大などの31名の研究者が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

およそ太陽質量の8倍以下の星の亡骸である白色矮星が連星系を構成する場合、もう一方の恒星の力を利用して起こすIa型と呼ばれる超新星がある。こうしたIa型超新星では、白色矮星が相方の恒星からガスを剥ぎ取って自身に降り積もらせ、その結果として白色矮星の質量が、太陽の約1.4倍の「チャンドラセカール限界質量」に十分近づいた場合、最終的に核反応の暴走が起きて超新星爆発に至ると考えられている。

Ia型超新星は、太陽の約50億倍という非常に明るい現象であり、さらにその明るさがどのIa型超新星でも一定していることが知られている(近年、一定ではない例外的なIa型超新星も発見されている)。しかし、そうしたIa型超新星が、どのやって引き起こされるのか、またどのようにして爆発の引き金が引かれるのかといった基本的な部分についてすら、まだよくわかっていないという。

そうした謎の解明に向け、東大木曽観測所の1.05m木曽シュミット望遠鏡に搭載されたTomo-e Gozenカメラを用いて、爆発から1日以内の爆発初期段階にあるIa型超新星を捉えることを試みているのが、ジアン特任研究員らの研究チームである。

2019年9月に本格稼働を開始したTomo-e Gozenカメラは、計84枚のCMOSイメージセンサー組み合わせた1億9000万という画素数と、1秒あたり2回という高頻度で一度に20平方度の視野の動画撮影が可能であり、超新星爆発をはじめとしたいつどこで起きるかわからない突発的な天体現象を捉え、その時間変化を詳細に調べることを得意としている。

研究チームは今回、Tomo-e Gozenの観測で発見された爆発初期の超新星を定期的にチェックする中で、2020年の4月21日にしし座近くの銀河「NGC3643」の近傍で発見されたIa型超新星のTomo-e 202004aaelbに着目。観測から、爆発直後にパルス状の閃光が示されたあとに一旦暗くなり、また明るくなるという、短時間での大きな光度変動が示されることを確認。今回の発見は、爆発後約5時間しか経過していないという初期の段階でのものと考えられるとしている。

  • Ia型超新星

    (上)Tomo-e GozenによるTomo-e202004aaelbの最初期の観測画像(2020年4月20日から約1日おきの画像)。(下)同時刻における光度の進化の様子(時間に対して光度が示された光度曲線)。緑の点は、上の超新星観測時と対応する光度の段階が示されている (C)KavliIPMU/東京大学 (出所:Kavli IPMU Webサイト)

また、せいめい望遠鏡を用いた追加観測から、爆発直後のスペクトルが、これまで知られているどのタイプの超新星とも異なる特徴が示されたとする一方、最も明るいタイプのIa型超新星との類似点もいくつか見出されたという。実際、時間とともにそのスペクトルは以前に発見された明るいIa型超新星の特徴との一致を示すようになったとしている。

さらに、閃光が生じ得るさまざまな状況や過程のシミュレーションと、実際の観測データとを比較したところ、爆発した白色矮星の周囲に大量の物質が存在し、これが超新星によって生じた爆風と衝突したことでエネルギーが放出され、それが閃光を引き起こしたと理解できることが示されたという。

  • Ia型超新星

    Ia型超新星Tomo-e202004aaelbを取り囲む星周物質と超新星放出物質の衝突のイメージ (C)東京大学木曽観測所 (出所:広島大Webサイト)

今回の成果は、通常のIa型超新星とは明らかに異なる進化過程が必要とされることから、今後、特異なIa型超新星の爆発機構として提案されているさまざまな理論予想を調べる手がかりになると期待されるという。

また、Tomo-e202004aaelbのような、飛び抜けて明るいタイプのIa型超新星の説明として、白色矮星が非常に高速で自転しているためにチャンドラセカール限界質量を超えた質量を持つ白色矮星が形成され、それが爆発した可能性が議論されているが、今回発見された大量の星周物質は、このようなシナリオを検証する上で鍵になる情報として期待されるともしている。

研究チームは今後も、爆発初期の超新星の発見および即時追観測を遂行することを計画しており、そうした取り組みを通じて、特異なタイプに加えて、一般的なIa型超新星に対してもその起源の理解が進展することが期待されるとしている。