東京大学、関西学院大学、京都大学(京大)、理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の6者は11月12日、磁性体中の電子スピンが作る竜巻構造「スキルミオンひも」の三次元形状を可視化することに成功したと発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 附属総合研究機構・物理工学専攻の関真一郎准教授(理研 創発物性科学研究センター(理研CEMS) 強相関物性研究グループ 客員研究員/JST さきがけ研究者兼任)、JASRI 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室の鈴木基寛主席研究員(現・関西学院大 工学部物質工学課程 教授)、京大 化学研究所(京大化研)の石橋未央大学院生(現・東大大学院 理学系研究科 物理学専攻 特任研究員)、東大大学院 工学系研究科 附属総合研究機構・物理工学専攻の高木里奈助教(理研CEMS 強相関物性研究グループ 客員研究員/JST さきがけ研究者兼任)、理研CEMS 強相関量子構造研究チームのNguyen Duy Khanh特別研究員(現・理研CEMS 強相関物質研究グループ 研究員)、京大化研の塩田陽一助教、東大 生産技術研究所の柴田基洋助教(理研CEMS 電子状態マイクロスコピー研究チーム 客員研究員兼任)、理研CEMS 強相関理論研究グループの小椎八重航上級研究員、理研CEMSの十倉 好紀センター長(東大 国際高等研究所 東京カレッジ 卓越教授兼任)、京大化研の小野輝男教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学/工学を扱う学術誌「Nature Materials」に掲載された。
近年、磁性体の中で現れる電子スピンの渦巻き構造「磁気スキルミオン」が、次世代の磁気記憶・演算素子の情報担体として期待されている。スキルミオンは、理想的な二次元系においては、粒子としての性質を持つことがわかっており、実際に二次元的なイメージング手法を用いた観測例が報告されているが、最近の理論研究によると、現実の三次元系におけるスキルミオンは、スピンが竜巻状に整列した「ひも」(スキルミオンひも)としての性質を持つことが予測されるようになっている。しかし、従来の二次元的なイメージング手法では深さ方向の情報が失われてしまうため、こうしたスキルミオンひもの三次元的な形状を実験的に可視化することは難しいと考えられていた。
そこで研究チームは今回、スキルミオンひもの三次元形状を明らかにするため、CTスキャンで用いられるX線トモグラフィに着目。大型放射光施設SPring-8にさまざまな工夫を施した測定環境を構築し、室温で数百nmの直径のスキルミオンを生じることが報告されている合金「Mn1.4Pt0.9Pd0.1Sn」の観測を実施したという。
その結果、スキルミオンひもの三次元形状を可視化することに成功。スキルミオンひもは試料内をほぼ真っ直ぐに貫通した形状をしていることが、実験的に証明されたほか、途中で形状が歪んだり、切れたり、分岐したりといったさまざまな欠陥構造が存在することも明らかになったとする。
研究チームによると、スキルミオンを電流などの外場で駆動する際には、スキルミオンひもが物質中の欠陥の存在下で、どのように変形やピン止めを生じるかを理解することが重要だという。その詳細を実験的に明らかにすることができれば、より効率的にスキルミオンを制御するための新しい指針の解明につながると考えられるとしているほか、近年の研究から、スキルミオンひもの振動を介して糸電話のように通信を行えることも明らかにされているが、こうしたひもの振動は電気回路における電流とは異なり、ジュール発熱によるエネルギー損失を生じないことから、低消費電力で書き換え可能な、次世代の情報伝送路として活用できる可能性も秘めているとのことで、まったく新しい磁気情報処理手法の開拓につながることが期待されるとしている。