クリミア戦争中、フローレンス・ナイチンゲールは、兵士の感染症罹患を減らす効果的な方法として、手洗いを奨励しました。この頃から、感染症の蔓延を防止するには、手洗いと洗浄が即効性に優れていることがわかっていたにもかかわらず、基本的な衛生習慣として根付いたのは、それから125年後の1980年代でした。その間、いくつもの感染症が世界規模で拡大しました。

現在、新型コロナウイルス感染症拡大による医療の危機に直面する中、新しい衛生習慣を打ち出す必要性が高まっています。これを、パンデミックがDX(デジタルトランスフォーメーション)に与えた影響として考えてみるとどうなるでしょうか。

手洗いが習慣になったときと同じように125年後に振り返ったとき、今日のパンデミックが同様のターニングポイントとなっている可能性がありますが、前回と異なるのは、デジタル・インフラストラクチャとサービスの採用です。DXの概念は新しいものではありませんが、アクセス可能なオンラインサービスのニーズの高まりによって加速されています。

ITリーダーたちは今日、歴史において商業的に重要な分岐点にいるといえます。従業員、顧客、パートナーはすべて、各々の目の前にある課題を解決してくれるテクノロジーを探しているため、投資先や方法をかつてないほど精査しています。しかし、イノベーションのためのイノベーションは、過剰な支出の割に大した利益にならない可能性があります。特に、これまで以上に複雑な経済的および環境的課題を抱える時期には、それは避けたい結果です。

小さな一歩が大きな飛躍に

何が正常か、または何が正常になっていくのかについての期待は、多くの点で変化しました。今日の事業運営は、パンデミック前と比べて劇的に変化しました。その間、テクノロジーとその変化する状況に適応して応用する能力がかつてないほど注目されています。従業員は新しい環境で生活して働く一方、仕事中でも育児や自宅学習(ホームスクーリング)などの責任を果たさなければなりません。

この変化に伴うのは、現代の状況に即した技術戦略でなければなりません。ITリーダーにとってこれは、これまでの投資の形が通用しないことを意味します。設備投資モデルとフォークリフトのアップグレードに依存する従来の18カ月の予算と調達サイクルは、予期せぬ要件のため計画が急に変更されることもある今日の事業運営には不向きです。代わりに、投資は、最大限の柔軟性と選択性を備えたインフラストラクチャへの柔軟な消費モデルにフォーカスする必要があります。これにより、チームは新しいプロジェクトやアプリケーションを迅速に実行および展開できます。

さらに、ますます経済の先行きが不透明になるにつれて、予算はこれまで以上に厳しくなるでしょう。新しいインフラまたはプロジェクトを導入する際、ITリーダーにとって不安材料になる可能性があります。柔軟な消費モデルを採用することの利点は、組織が資本集約的な変革に伴うことが多い「大きな賭け」を回避できることです。代わりに、コストの上昇、予算の枯渇、ベンダーロックインのリスクを抑えながら、組織のITモダナイゼーションを積極的に推進できます。

オンプレミスを償却しない

流動的な時期には、IT支出とインフラを事前に計画するという課題が複雑になります。リーダーはプロビジョニングを過小または過大にしたり、ビジネス変革のための誤ったソリューションにフォーカスしたりしてしまいがちです。ある調査によると、クラウドへの移行は、拡張性、データ管理の容易さ、コスト抑制可能という特徴により、デジタルプロジェクトを実施する多くのビジネスリーダーにとって依然として最優先事項であることがわかっています。

COVID-19の影響でクラウドの採用が加速している可能性がありますが、クラウドは唯一の選択肢ではありません。組織は、シンプルさ、敏捷性、柔軟性を優先しますが、これらは、オンプレミスにも存在するクラウドの特性です。かつてないほどに、ITへのハイブリッドなアプローチが求められているのです。

クラウド・アーキテクチャにより、組織はIT戦略を展開し、アプリケーションを迅速にレベルアップし、大規模なデータセットを保持できることは事実ですが、オンプレミスのリソースは依然としてビジネス運営において重要な役割を果たします。AIやディープラーニングといった新しいテクノロジーを戦略に取り入れることを視野に入れているような先見の明のあるビジネスリーダーにとって、オンプレミスの機器は貴重です。これにより、データの動作が向上し、クラウドで保持できないミッションクリティカルなアプリケーション(低いレイテンシーと高スループットが必要なアプリケーションなど)に注力できるようになります。

オンプレミスをクラウドと同じようにすることで、企業はワークロードやビジネス目標に応じて、オンプレミスと一緒にプライベートクラウドまたはパブリッククラウドの活用を選択できます。また、柔軟な消費モデルを活用することで、企業は絶えず変化するビジネスニーズに対応できます。

重要なのは、このハイブリッドなアプローチは予算に重きを置く必要がないということです。リーダーがインフラをオンデマンドで拡張できるような柔軟な消費モデルでは、総所有コストが削減されます。あらゆる組織がバランスシートの規模に関係なく、基幹技術を手頃な価格で、利用できるようになります。これにより、ビジネスの他の領域に投資するための資本が軽減されます。

新しい世界秩序

小売、製造、金融などいずれの業種であっても、すべてのビジネスリーダーは、企業戦略をテクノロジー戦略に合わせる必要があります。これは、メリットがリスク回避型である場合に容易になります。常に必要なのは、財政支出を精査し、可能な場合は削減することへのリーダーの理解です。したがって、技術展開における新世界秩序は、柔軟性を持つ必要があります。

この柔軟性により、短期および長期の現金および資本のコミットメント、データストレージの範囲、および所有かサブスクリプションかを選択できるようになります。これは、迅速な意思決定を支え、製品の革新によって競合他社を凌駕する能力となります。小売業におけるAIを活用したパーソナライズされたショッピングであれ、自動運転車でのディープラーニングのアプリケーションであれ、あらゆる規模の組織が競争し、アプリケーションを迅速に構築し、需要に応えるチャンスがあるべきです。最終的に、そのレベルのアクセシビリティとリスク回避性を実現できるのは、柔軟な消費モデルだけなのです。

歴史から学ばなければ、過ちは繰り返される

結核やマラリアなどの1980年代の感染症の流行時とは異なり、今日のパンデミックは、単なる変化のきっかけではなく、より効率的なIT支出とデジタルサービスの成長に向けてこれから加速する出発点と見なされるべきです。ただし、かつてないほどDXが求められているにもかかわらず、多くの組織は、自社ITの大幅な見直しのために自由に使える資本を持っていません。さらに、財務担当とビジネスリーダーはこれまで以上に予算の制約を意識しており、リターンが保証されているものにのみ投資する可能性があります。

したがって、ITリーダーは賢く、テクノロジー環境を管理する別の方法に目を向ける必要があります。総保有コストが低く、迅速な統合と俊敏性を備えた柔軟な消費モデルは、今日のIT運用環境の多くの課題に完全に適合しており、今後間違いなくビジネスの主流になるとともに、日本のDX推進のカギとなるでしょう。

著者プロフィール

田中良幸

ピュア・ストレージ・ジャパン 代表取締役社長

2017年2月にピュア・ストレージ・ジャパンの代表取締役社長に就任し、日本のセールス、マーケティング、サービス全ての責任を担っている。 ピュア・ストレージ以前は、日本のエンタープライズIT業界で長年の経験を積んでおり、ジェネシス、GXS、FileNet、Calico Commerce、TIBCOなどのグローバルなエンタープライズソリューション企業の日本法人社長を歴任し、多岐にわたるリーダーシップと戦略的マネジメントを実施してきた。ピュア・ストレージの日本代表就任を契機に、これらの経験をもって日本における継続的な企業成長と自社製品の市場シェア拡大に貢献していくことを目指している。