ispaceは9月10日、次の10か年(2022年3月期から2031年2月期)に向けた中期ビジョン「Cislunar Digital Twin 2030構想」を策定したと発表した。

Cislunar(シスルナ)とは地球と月の間の空間のことで、同社はそのシスルナにおいてデジタルツイン技術を拡張した「リアルとデータの融合」を実現し、大規模データベースの構築を通じて、月へのペイロード輸送を加速することを目指すCislunar Digital Twin 2030構想を推進していくとしている。

長期ビジョン「Moon Valley 2040構想」のための中間点となるCislunar Digital Twin 2030構想

Cislunar Digital Twin 2030構想は、同社が2040年の長期ビジョンとして掲げている、月と地球を1つのエコシステムとする経済圏の創出「Moon Valley 2040構想」を実現するために不可欠なステップとして、次の10年間の具体的な戦略を広く世界に示すものだという。

同社のMoon Valley 2040構想実現に向けたロードマップを大きく2つのフェーズに分かれている。フェーズ1では、同社は、66億トンともいわれる月の水資源や、そのほかの資源の商業的価値に着目し、高頻度・低コストで月面輸送を行うプラットフォームを構築すると共に、月面資源のデータマッピングを始めとする、月ビジネスに参入するすべてのクライアント(国家宇宙機関・研究機関・民間企業などの顧客)に、有益な月のデータ(画像データ・環境データ・資源情報など)を提供することを計画しているとする。

続くフェーズ2では、月面資源開発資源利用のプラットフォームを構築するために、月の水資源からロケット推進燃料を生成する事業パートナー企業とのアライアンスによる「水素バリューチェーン」の構築などに取り組む計画としている。

このMoon Valley 2040構想の中間点であるフェーズ1の達成到達点がCislunar Digital Twin 2030構想の実現であり、そこから先がフェーズ2となり、Moon Valley 2040構想のゴールへと至るという道のりだという。

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    中期ビジョンCislunar Digital Twin 2030構想から長期ビジョンMoon Valley 2040の実現に向けたロードマップ (c)ispace (出所:ispaceプレスリリースPDF)

月への輸送市場の拡大に伴い、ispaceが予測しているのが、月のデータ市場の大きな成長だ。月面へ輸送された機器などによって取得された情報が蓄積され、月面への物資輸送事業の拡大と共にそれは増幅され、より大型なデータベースが構築されると考えられるとする。

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    月面産業の広がり(ispaceの委託を受けたPwCコンサルティングが調査を行い、ispaceが試算)。数値は各5年間累積数値の年平均値 (c)ispace (出所:ispaceプレスリリースPDF)

こうした背景から、同社が中核サービスとして研究開発および営業活動を進めているのが、ペイロード・サービスおよびデータ・サービスの2つで、ペイロードサービスでは、クライアントから輸送したい荷物を預かり、同社が開発する月着陸船の小型ランダーおよび月面探査ローバーに搭載の上、月面もしくは月周回軌道へ輸送する。2022年度および2023年度に予定する最初の2回のR&Dミッションを通じて輸送技術を確立し、2024年度のミッション3以降は1ミッション当たり100kg超のペイロードを輸送する商業フェーズとすることを目指すとしているほか、2024年度以降は年間2回の月面輸送ミッションを、さらに2027年度以降には年3回と高頻度の月面輸送ミッションを提供可能とするサービス運用および製造体制を目指す計画としている。

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    ミッション1で使用するシリーズ1ランダーの熱構造モデルの環境試験の様子 (c)ispace (出所:ispace Webサイト)

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    月探査ミッション「HAKUTO-R」の2回のミッションで運ばれる予定の超小型ローバーのイメージ (c)ispace (出所:ispace Webサイト)

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    ispaceのペイロード・サービスのミッションスケジュール(2021年9月10日時点のもの) (c)ispace (出所:ispaceプレスリリースPDF)

ちなみに2022年度のミッション1では、予定の販売可能重量である約12kgのほぼすべてを満たすペイロードについて、クライアントとの契約を締結済みとなっているほか、ミッション2以降についても、合計約11kg(覚書ベース)のグローバルなクライアント需要を確認しているという。

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    ミッション1のランダーの月面着陸時のイメージと各ペイロードの内容。ミッション1に加え、ミッション2もこのシリーズ1のランダーが使用される (c)ispace (出所:ispace Webサイト)

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    2021年8月24日に発表された、ミッション3以降で使用される予定のシリーズ2のランダーのイメージ。シリーズ1よりも大型化し、ペイロード設計容量も増やされている (c)ispace (出所:ispace Webサイト)

新たなビジネスモデルとなるデータ・サービス

ispaceでは、新たなサービスの萌芽として、クライアント自身がペイロードを準備の上、ispaceに輸送を委託し、月面や月周回軌道から地球へ試験データをフィードバックするという、同社のペイロード・サービスを活用した直接的なデータ収集や、地球へデータとして送り返し、解析の上、次なるR&Dへ活用することを目的としたニーズなどがでてきたという。

同社ではこうしたニーズを「データ・サービス」として定義しており、ミッション1から実施していくとするほか、2025年ころまでは、ミッションごとに、同社自身で開発・購入するデータ計測機器やカメラ機器など(インターナル・ペイロード)を輸送し、主に月のデータを取得し、時にはクライアントの特定のニーズに合わせて取得するデータもその都度アレンジしつつ、取得したデータをクライアントに対して提供することを計画しているとする。

また、2026年以降については、高頻度なミッションを通じて、同社のインターナル・ペイロードから取得・蓄積された情報に、地球上で入手可能な既存のデータも加え、加工、解析、統合することで、クライアントにとって高付加価値な「大規模な月のデータベース」をクラウド上に構築する計画だという。

さらに、月の周回軌道上に投入される人工衛星などによりグローバル(全球的)な情報網が構築され、リモートセンシングを活用した水資源分布などの広域調査、衛星測位システムによる位置測定、地球へ向けたデータの通信リレーなどが可能となると考えているともしている。

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    ispaceが2030年にかけて提供を目指す高付加価値データのイメージ (c)ispace (出所:ispaceプレスリリースPDF)

ちなみに同社は、月面でのミッションが完了した後は、取得したデータを再び同社が提供するデータベースと組み合わせることで、より精度が高い次回以降のミッションの検討へフィードバックさせるといった、デジタルツイン技術による好循環サイクルの創出も図っていくとしている。

こうした「リアルとデータの融合」により、Moon Valley 2040構想の経済圏の創出が可能になるとのことで、同社は、地球と月の間のシスルナ空間におけるデジタルツイン技術を実現すべく、大規模データベースの構築に向けたCislunar Digital Twin 2030構想を目指していくとしている。

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    デジタルツインによる月面ミッション計画の最適化およびリアルタイムフィードバックのイメージ (c)ispace (出所:ispaceプレスリリースPDF)

今後10年間で、研究開発に数百億円を投資

同社では、これらを実現するための研究開発投資として、2026年3月期までに総額300億円を、2031年3月期までの10年間では総額760億円程度を投下する計画だ。

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    研究開発投資の内訳と投資金額のイメージ (c)ispace (出所:ispaceプレスリリースPDF)

なお、同社では、2020年代前半にかけては主にペイロード・サービスが成長を牽引し、2020年代後半にはデータ・サービスの広がりが成長をより加速させることができるとの考えを示しており、その結果、潜在的には、2027年3月期ころの売り上げ・EBITDAの約2割、2031年3月期ころには売り上げの4割・EBITDAの5割以上をデータ・サービスで獲得することを目指していくとしている。

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    ペイロード・サービスおよびデータ・サービスの売上成長イメージ。なお、現時点のispaceの見込みに基づくイメージ図であり、実際の業績を示唆するものではないとしている (c)ispace (出所:ispaceプレスリリースPDF)

2021年9月15日訂正:記事初出時、一部の画像にて、「民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のミッション1で使用するシリーズ1ランダーのフライトモデル」と記載させていただいておりましたが、正しくは「ミッション1で使用するシリーズ1ランダーの熱構造モデル」となりますので、当該箇所を修正させていただきました。また、併せまして「Cislunar Digital Twin 2030構想」を略して「CDT2030構想」、「Moon Valley 2040構想」を略して「MV2040構想」と記載させていただいておりましたが、公式にはそうした略称を使用していないことから、当該箇所の表記を変更させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。