フランス政府原子力および代替エネルギー庁傘下の電子技術情報研究所(CEA-Leti)は、イタリアのミラノ工科大学と協力して、自動車や産業用および航空用機器などの過酷な環境で動作する50kHz動作の高性能ジャイロスコープをNEMS技術を用いて開発したと発表した。動作周波数を向上させたことで、さまざまなシステムの振動下でも微小な回転運動を検出できるようになったという。

一般的な慣性センサは、パフォーマンスと堅牢性の要件だけでなく、小型化とコストの制約を満たすように設計する必要がある。さらに自動車や産業、軍事用途におけるジャイロスコープは、より強い振動にさらされる環境下で微小な運動を検出することが求められる。

低電力なNEMSジャイロは、省設置スペースで低消費電力という特徴からさまざまな分野で活用されている。自動車分野では、横滑り防止装置により車両の安定性を向上させることができるようになる。また、自動運転車のデッドレコニング(GPSを利用した測位システムにおいて、トンネルなどでGPSの信号が受信できず測位不能になった場合でも、外部から入力された方位情報や加速度情報を使用することで測位を可能にする技術)にも使用できるほか、スマートフォンに組み込むことで、ユニットの回転やねじれの検出(ジェスチャ認識機能)、GPSが無効になっているときの屋内ナビゲーションなどの機能も可能になる。

自動車をはじめとするさまざまなシステムは、特定の共振周波数で動作することが知られているが、こうした機械的振動が40kHzを超えることはめったにない。一方で、20kHzの共振周波数を超すMEMSジャイロスコープはほぼ存在していないことから、今回、研究チームは一般的な振動周波数を超す50kHzオーダーの周波数で動作するジャイロスコープを開発することで、これまでの課題を解決することに成功したという。

この50kHzジャイロスコープチップはCEA-Letiのシリコンパイロットラインで製造されたが、外部のほとんどのMEMSファウンドリのプロセスと互換性があるという。そのため実際の商品化では、ニーズに応じて、NEMS/MEMSプラットフォーム上でジャイロスコープを3軸加速度計および/または高性能圧力センサと単一のチップ上で統合することができるとしている。

  • ジャイロスコープ

    開発された車載用50kHzジャイロスコープのNEMSチップ写真 (出所:CEA-Leti)

  • ジャイロスコープ

    開発された車載用50kHzジャイロスコープのNEMSチップの設計仕様と特性 (出所:CEA-Leti)