中国ファウンドリ最大手のSMICは12月15日、2013年までTSMCの共同最高執行責任者(COO)を務めていた蒋尚義氏を副董事長(日本の副社長に相当)と同社戦略委員会メンバーに任命する人事を発表したところ、SMICの梁孟松・共同最高経営責任者(CEO)がこの人事に反発して辞表を提出し、混乱が生じていると、中韓台米の多数のメディアが報じている。

梁氏は、「蒋氏の副董事長就任に驚くとともに理解できない。私に対するSMICの信認がすでに無くなったと感じた」と辞任の理由を述べている。この混乱で、16日の上海市場におけるSMICの株価は10%近く下落したほか、香港市場では一時取引が中止となった。

台湾出身の蒋氏は、米スタンフォード大学で工学博士号を取得後、Texas Instrumentsなどの半導体メーカーの開発部門に勤務した後、1997年からTSMCで半導体開発を主導。2013年にTSMCの共同執責任者(COO)を退任した後、2016年から3年間、SMICの社外取締役を務め、2019年に中国武漢の新興ファウンドリHSMCのCEOに就任していた。しかし、同社は2020年に経営破綻、同氏はCEOを辞任していた。

一方、梁氏も台湾出身で、米カリフォルニア大学バークレー校で工学博士号を取得。TSMCで先端半導体開発を指揮したのち、Samsung Electronicsに引き抜かれて最先端半導体の開発を指揮。その後、2017年にSMICの共同CEOに就き、同社の技術開発をリードしてきた。

梁氏は、米国、台湾、韓国、中国と渡り歩き、各社の先端プロセス開発を成功に導いてきた半導体技術の第一人者として注目を浴びている人物だが、2人の経歴からわかるように梁氏と蒋氏は、米国に進学して以来、長年にわたって常にライバル関係にある。また、中国の半導体産業界で活躍しているのは、実はもともとTSMCの幹部経験者であることも見てとれる。

中国半導体メーカーに相次ぐ経営危機、SMICはどうなる?

現在、米中貿易紛争の最中にある中国の半導体産業に異変が生じている。まず、武漢で14nm~7nmプロセスの先端ロジック半導体の提供を目指し、2017年11月に設立された新興ファウンドリのHSMCが資金ショートで事実上の経営破綻に追い込まれた。同社は今後、武漢市地方政府の管理下に置かれる模様である。

さらに、新興NANDフラッシュメモリメーカーを傘下に抱える国策ハイテク企業である清華紫光集団が11月の私募債債務不履行に続いて12月10日に2度目の社債債務不履行を出し、信用が失墜している。こちらも資金ショート状態に陥っているようだ。

そしてSMICだが、米国防総省が12月3日に、SMICを「共産主義中国国民解放軍と関係の深い企業」に指定。これにより今後、米国企業による同社への投資や輸出がますます困難になることが明確となった。

すでに同社に対しては10月に、米商務省産業安全保障局が米国の主要半導体製造装置メーカーや材料メーカーに対し、SMICと取引する際には事前に輸出許可(ライセンス)を得るように命じているが、同省は原則としてライセンスを与えないとしており、SMICも米国からの輸入が滞っていることを認めている。

先だって米国製半導体製造装置の禁輸措置が取られた中JHICCは2019年に操業停止に追い込まれており、SMICもこうした措置が長く続くようであれば、経営危機になりかねないが、そうした動きに輪をかけて今回の人事が経営面での混乱に拍車をかける可能性がある。

SMICは現在、Huaweiと同じく、米国製半導体製造装置を使わない半導体ファブの建設を計画していると噂されているが、数十nmクラスのレガシープロセスならともかく14nmや7nmといった先端半導体プロセスの製造は困難との見方が半導体業界関係者の間では有力である。これにより、中国半導体製造装置業界の国産による装置開発が促進される可能性もあるが、すぐの実現は無理であろう。SMICに製造委託している顧客の多くがTSMCの南京工場へ委託先を変更していると言われており、TSMCは南京工場の生産能力を強化するのではないかとのうわさも現地では広まっているという。