SEMI Japanが10月20日に開催したSEMI会員向けバーチャルセミナーで、半導体製造装置材料の国際的な業界団体であるSEMIの米国ワシントンD.C.オフィス所属のGlobal Public Policy & Advocacy担当バイスプレジデントとして米国議会や米国商務省との交渉にあたっているJoe Pasetti氏が、米国政府の対中輸出規制について最近の動向を日本のSEMI会員企業のために解説した。

商務省の対中輸出規制は極めてあいまいであり、結果として商務省には各企業からの問い合わせが殺到する形となっているが、個々の質問に対して明確に答えられておらず、漠然とした不透明さが浮き彫りとなった。

Huaweiへの海外製造製品の出荷に関する規制

8月17日付で商務省が発表し、9月15日に施行された規制は、米国外で製造されたパーツ、コンポーネント、装置のうち、米国の技術やソフトウェア、設計ツールが使われているものすべてを規制対象としている。

従来の米国製だけではなく、今回は米国外のメーカーが生産した製品も国籍や製造地によらずすべてを広範囲に規制しようとしており、影響は甚大で広範囲に及ぶ。これについて、Pasetti氏は「この規制には不明な点が多々あり、それぞれ個別の取引にどのように影響を与えるか不透明である。SEMIに直接関係した不明点としては、半導体製造装置、とりわけ半導体最終テスト装置が規制対象となっているかどうかである。先日、SEMIは商務省とテレカンファレンスを行い、この点を問いただし、商務省担当官から『製造・テスト装置に対して規制する意図はない』との返事をもらった。しかしながら、規制に関する商務省文面からはこれらが含まれるとも読めるので、本当に含まれないのかあるいは含まれるのか不透明である」と述べた。同氏は商務省が公表している公式文書に照らして商務省の担当官の回答がはたして商務省の確定した判断かどうか半信半疑のようだった。さらに、「商務省から出荷許可の要求される品目がなにかもあいまいなままで、米国から出荷するのにライセンス取得が必要ない品目も 海外で製造し出荷する場合はライセンスが必要とも読めるような箇所があり、不透明なままである」と付け加えた。

SEMIとして不明箇所に関して商務省に質問状を出しているが、同省にはたくさんの質問が殺到しており、人手不足で個別の質問に答えられていないという。同省のFAQ(頻度の高い質問の例)欄には限られた数の答えしか載っておらず、今後数週間以内に追加の質問回答が載ることを期待しているとPasetti氏は述べた。

軍事目的の最終ユーザーとSMIC規制

また、4月に発表され、6月に施行された中国の軍事目的のエンドユーザーに対する規制に関しては、製造装置や設計ソフトウェア、フォトレジストが対象となっており、一時は半導体業界への影響が懸念されたが、中国の半導体メーカーは軍事エンドユーザーには認定されておらずSEMI関連では影響はほとんどなかった。しかし、9月末に中国最大のファウンドリであるSMICへの規制が明るみに出て懸念が再燃することとなった。

商務省は9月末に「Informed Letter(通知書簡)」を米国の主要な装置・材料メーカーに出して、SMICへの輸出に関して事前に商務省に申請してライセンスを受けるように要求した。基本的にはライセンスは発行しないというスタンスであるため、事実上の輸出禁止である。「商務省から書簡を受け取らなかった企業もSMICへ輸出する場合はライセンスについて考慮する必要がある」とPasetti氏は指摘。米国ファブレスがSMICに設計図面を渡して製造委託する場合も規制対象になるという。ただ、「ここで重要なのはアメリカ国内のみ対象で、海外は規制対象から外れるというのが一般的な理解である」と同氏は指摘した。また同氏は、「商務省はSMICをエンティティリストに載せることを現在検討中で、リストに載ると米国製のすべての品目にライセンスが必要になる」と付け加えた。  

米国の国家安全保障確保に向けて輸出規制される新興技術と基盤技術

2018年に定めた米国輸出管理改革法(ECRA:Export Control Reform Act)に沿って商務省は新たに輸出規制対象とする新興技術と基盤技術の特定作業を進めている。

次々と軍事転用可能な新興技術が生まれており、すでに31項目の輸出規制を発表してきたが、2020年10月に6項目を追加指定しており、これにより合計37項目が指定された。

新興技術とは、つい最近開発された技術か開発中の技術で、いままで規制対象でなかった技術を指す。基盤技術とは、すでに規制対象だが、さらに厳しく規制を強化する技術を指す。指定品目の是非について11月9日締め切りでパブリックコメントを募集していることから、年内はこれ以上の新項目は追加されないとSEMIは見ている。しかし、今後、半導体製造装置や設計ソフトウェアなど、先端半導体関連品目の追加が検討される可能性があるという。

米国の半導体研究・製造強化策

商務省は、米国内における半導体製造施設(ファブ)の新設に関して、州政府の補助金と同額のマッチングファンドを年度内に開始することを目指して準備を進めているが、詳細は未定である。新しいファブや既存ファブの拡張、製造装置の購入に関して40%の投資減税が計画されているが実現するか不明である。また、研究費用の減税も検討されている。さまざまな半導体研究・製造に対する助成金や補助金が計画され、実際に審議されており、一部は実行に移されている。

全体像がつかめないHuawei向けライセンス取得

セミナーの最後に、参加者から「Intelには、Huaweiへの半導体輸出を商務省が許可したという報道があるが本当か?」という質問が出たが、これに対して、Pasetti氏は、「Intelのほか、AMDにも一部の半導体製品、おそらく5Gに関連しない製品のHuaweiへの出荷を商務省が許可したという報道があるが、商務省も民間両社も、いずれも公式になにも発表していない。したがって、どのような企業に対してどのような製品が輸出許可されているのか何も把握できないでいる」と答え、逆にSEMIの会員企業にライセンス申請や許可情報の提供を求めた。SMICに対する輸出規制についても同様にどのような米国企業に輸出規制を指示する書簡が送られたかはわかっていないという。