科学技術振興機構(JST)ならびに物質・材料研究機構(NIMS)は12月14日、GaNの熱によるひずみを制御することで、高温でも安定に動作するMEMS振動子を開発することに成功したと発表した。

同成果は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のサン・リウエン独立研究者(JST さきがけ研究者 兼任)らによるもの。詳細は2020年12月12日~18日にオンライン開催されている国際学会「IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM2020)」で発表された。

電子デバイスには、通信の同期を実現するために一定周期の信号を発生させるタイミングデバイスが用いられるが、大容量、多接続、低遅延が求められる5Gでは、優れた時間安定性と時間分解能を両立させた高性能な周波数基準発振器が求められていた。発振器としては、既存の水晶発振器は大きく集積性が悪いため、半導体デバイスへの応用は限定的で、熱安定性、位相雑音の低減、周波数の調整、小型化によるCMOSとの集積性といった観点からMEMS発振器の活用が期待されているが、正確なタイムセンシングの実現のために、高温でも安定に動作し、低い周波数温度係数(TCF)と高い品質係数(Q値)を兼ね備えたMEMS振動子の実現が求められていた。

一般的なSi系MEMS振動子は弾性体のTCFが負で、最高でもマイナス30ppm/K程度で、温度上昇に対応して安定に動作させるためのさまざまな工夫によりTCFが改善されてきたものの、いずれも振動子のQ値が低く、高温で悪化するという課題があった。

そのためGaN-on-SiなどでCMOSプロセスとの親和性が高いと考えられるGaNの活用を研究チームでは模索。MOCVDを用いて、成長の温度の下げ方を最適化したことで、Si基板上に亀裂がなく、歪み除去層を用いる従来手法に匹敵する高品質なGaN結晶の成長に成功したとする。

実際に、このGaN結晶膜でレーザー描画技術やSi離型技術を用い、両持ち梁型の構造をした作製されたMEMS振動子は、Si離型の前後でそれぞれ770MPa、640MPaの引張応力が得られたという。

  • GaN系MEMS振動子

    両持ち梁型GaN系MEMS振動子の作製フロー。Si基板上のGaN薄膜成長層にスピンコートでフォトレジストを塗布、その後、レーザー描画でマスクを作製し、そこからドライエッチでGaNとAlNを削り取り、化学エッチングでレジストを除去し、Siを離型したという (出所:プレスリリースPDF)

また、このMEMS振動子は2つの共振モードがあり、座屈モードの温度に対する周波数安定性は改善していること、ならびに同モードのTCFの温度依存性は最高でマイナス5ppm/Kと、Si系MEMS振動子の6分の1の低いTCFが得られたとする。さらに最高のQ値は10万以上と、GaN系MEMS振動子としては最高クラスの値を達成したという。

  • GaN系MEMS振動子

    GaN系MEMS振動子の座屈モードの温度依存性 (出所:プレスリリースPDF)

研究チームでは、このGaN結晶膜で作製したMEMS振動子は、温度が600Kまで上昇しても自ら温度上昇に対応して安定に動作することを実証したとしており、今回開発した技術を活用することで、小型かつ高感度、しかもCMOSプロセスと統合可能なGaN系MEMS振動子による5G向けタイミングデバイスなどへの応用が期待されるとしている。