名古屋大学(名大)は11月2日、「窒化ガリウム(GaN)結晶」に格子整合する新たな窒化物半導体「AIPN」の合成に成功したと発表した。
同成果は、名大未来材料・システム研究所附属未来エレクトロニクス集積研究センターのMarkus Pristovsek特任教授らの研究チームによるもの。詳細は、物理系学術誌刊行センターの科学誌「Applied Physics Express」にオンライン掲載された。
今日の移動通信システムは通信速度の高速化・大容量化が求められる一方で、同時に低消費電力化も求められている。GaNを用いた「高電子移動度トランジスタ(HEMT)」は高周波で動作し、効率よく電力を電波に変換できることから、5G基地局などで活用が進んでいる。一般には5Gを利用できるようになって間もないが、すでに次世代(6G)通信システムの研究開発は進められており、その構築に向けて、より高性能なGaN-HEMTの開発が必要とされている。
現在のGaN-HEMTでは、GaN結晶の上にGaNと窒化アルミニウム(AlN)の混晶であるAlGaN結晶を形成した結晶が使用されている。AlGaN層はトランジスタ信号として働く電子を発生させ、その電子がAlGaNとGaNの界面を流れることで、トランジスタとして動作するという仕組みだ。
電子供給層として、AlGaN結晶よりも自発分極の強い、例えばAlNのような結晶を利用すると、トランジスタの特性向上が可能であることが知られている。GaNやAlNなどの窒化物半導体では窒素の電気陰性度が大きいため、金属原子が正に、窒素が負に帯電するが、これを自発分極という。
ただし、トランジスタの特性向上が可能とはいっても、電子供給層として用いる結晶の原子の間隔がGaN結晶の原子の間隔と異なると、GaNとの界面で原子配列の乱れが起こるため、高い電子移動度は得られないという。
そこで研究チームは今回の研究で取り組んだのが、GaNと格子整合可能な、新たな窒化半導体「AlPyN1-y」結晶の合成だ。リンの組成yを0.1近傍で精密に制御することにより、GaNとAlPyN1-yとの原子間隔の一致の度合いを制御。AlPyN1-y結晶層内部の欠陥の発生を抑制しつつ、AlPN層とGaN層の間の界面での原子配列を整合させることに成功したという。
高分解能X線回折法によって今回の実験で作製されたAlPyN1-y(P=0.103)/GaN積層構造を評価した結果、設計通りのAlPyN1-y(P=0.103)/GaN積層構造が形成されていることがわかったという。
また、この結晶ではリンの含有率が低く、AlNと同様の、強い自発分極が起きていると考えられ、トランジスタ特性向上を可能にすると考えられるとしている。
なお、研究チームは、今回の研究成果を応用して実現されるトランジスタにより、通信システムの高速化、小型化、高効率化が期待されるという。それにより、5G通信システムの普及、さらには6G通信システムの開発に大きく貢献すると考えられるとしている。