世界的イベントの延期と新型コロナでテレビ市場が急落

市場動向調査会社である英Omdiaは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年のテレビ出荷台数の見通しを、従前のプラス成長予測から一転、マイナス成長とし、市場は急激な低迷が予想されるとの予測を公表した。

それによると、2020年の世界のテレビ出荷台数見通しは、2019年の2億2,290万台(実績値)から前年比8.7%減となる2億350万台に留まるという。これまでの予測では、出荷台数は同1.1%増の2億2,540万台であった。

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    Omdiaによる世界のテレビ出荷台数の推移および予測(2019年第3四半期までは実績値。それ以降は2019年第3四半期時点での予測) (出所:Omdia)

需要の急落は、個人の動きを制限するという世界中の国々での政府の命令の結果であるという。これらの制限は、消費者の通常の生活と買い物習慣に対する大きな混乱をもたらしている。同時に、通常のスポーツイベントの中止、特にサッカーUEFA EURO 2020と東京五輪の延期により、テレビの販促活動の多くが留め置かれた状態になっていることも要因にあると言える。

Omdiaのコンシューマデバイス担当リサーチディレクターであるPaul Gray氏は「特定の地域でテレビの出荷が年間10%以上減少することはそれほど珍しいことではない。過去12年間に、このような地域のイベントによる出荷減少が12件あった。しかし、今回のような世界各国政府の自宅待機命令により、テレビの出荷台数の減少が世界中で同時に起こるという事例は前例がないことである。この現象は、テレビ市場の歴史でも今まで見られなかった事態である」と述べている。

市場の回復は2021年に

Omdiaの最新予測では、需要の低下の大部分が2020年第2四半期に発生するとしている。中国は第2四半期に回復を始めるものの、ヨーロッパと北米の出荷が前年同期比で40%以上の減少との予想で、それが全体を押し下げる要因となるという。

また、同氏は、テレビ市場の2020年の見通しは良くないものの、過去のデータを踏まえれば、2008-2009年の景気後退局面から脱した後、テレビの売り上げは堅調に推移した。この背景には、テレビが外出するよりも低コストで品質の良いエンターテイメントであることが評価されたことが挙げられる。今回の政府による自宅待機命令が発せられる前に、一部の消費者がテレビを購入したという事例も複数報告されており、新型コロナウイルス感染拡大の問題が終息し、2021年に延期されたスポーツイベントが無事に開催されたならば、テレビの売り上げ台数を押し上げることにつながるだろうという楽観的な見方もできることをコメントしている。

DSCCは同10%減と予測

FPD市場調査会社の米DSCC(Display Supply Chain Consultants )も4月2日、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴うインパクトによってテレビおよびFPD(フラットパネルディスプレイ)の需要動向がどのように変化するかについての緊急分析を行ったことを明らかにした。

それによると、欧米における急速な経済悪化により、テレビやスマートフォン(スマホ)などのFPD搭載製品の需要が急速に減速してきており、こうした需要減退により、2020年のテレビ市場は前年比10%減の2億3300万台に留まるとDSCCでは試算している。2020年1月に発表した従来予測では、UEFA EURO 2020や東京五輪なども開催される見通しであったため前年比2%増としていたところからのマイナス成長への修正である。

また、2020年第1四半期は前年同期比15%減を見込む。中国が同27%減(2月単月では前年同月比45%減)と大きい。中国内のテレビ販売における店頭販売比率は2019年第1四半期は55%であったが、2020年第1四半期の需要はその半数ほどで、店頭販売シェアは40%以下に落ち込む見通しである。さらに第2四半期は、中国が前年同期比5%減まで回復するものの、欧米が同40%減となるため全世界でも同19%減と落ち込むことが見込まれるという。外出規制が緩和される時期次第では、さらに販売台数が減少する可能性があるという。

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    DSCCによる世界のテレビ出荷台数の四半期ごとの出荷実績および予測(2020年1月時点での予測および2020年3月時点での予測) (出所:DSCC)

日本のFPD部材装置メーカーは供給先の見極めを

2020年のテレビ市場の需要減退に伴い、テレビ以外の他用途を含むFPDパネル市場全体では、面積で前年比6%減、金額で同8%減とマイナス成長に陥るとDSCCでは試算している。

また、中国市場は早期に回復する一方、欧米市場は需要が落ち込むというシナリオにおいては、中国市場に強いブランド・デバイスメーカーがより存在感を増し、欧米市場に頼っていたブランド・サプライチェーンが苦境となり、勝ち負けが鮮明化するとDSCCでは説明する。現在、FPD市場における日本のポジションは、部材・製造装置で強みを発揮しているが、この場合、欧米市場に強い韓国のFPDメーカーからの需要の減退を覚悟しつつ、供給先の見極めに注力する必要があるとDSCCでは警告を発している。

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    DSCCによるFPDパネル数量および金額の2019年実績および2020年予測(1月時点および3月時点) (出所:DSCC)