新型コロナウイルスの影響でTSMCの先端プロセス開発が遅延の可能性
TSMCは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、3nmプロセスの試験生産ラインへの半導体製造装置の搬入を従来予定していた2020年6月から2020年10月へ4か月延期することを検討していると台湾の複数のメディアが報じている。
TSMCでは、2022年に3nmプロセスでの量産を開始する計画としているが、試験生産の開始が2021年にずれ込むことで、量産開始のスケジュールにも影響が及ぶ可能性があるという。ただし、同社は現在、5nmプロセスを用いた量産の準備に注力しており、3nmについてはノーコメントというスタンスをとっている。
当初の計画では本社のある台湾新竹科学工業園区(竹科)のファブ12Bに設置された3nm試験生産ラインに6月より各種の製造装置を搬入するほか、台南市にある南部科学工業園区(南科)のファブ18にも2020年秋をめどに製造装置の搬入を予定していたという。この計画に狂いが生じたのは、「新型コロナウイルスが欧州で感染拡大を引き起こした結果、最重要製造装置であるEUV露光装置の製造メーカーであるASMLもその影響を受け、技術開発が進んでいない可能性があるため」と台湾の半導体業界関係者は見立てを述べている。
新型コロナウイルスが業績に影響を及ぼすASML
その渦中のASMLだが、当初は新型コロナウイルスによる開発や製造への影響について4月15日に予定している四半期業績発表の場にて説明するとしていたが、さまざまな方面から多くの問い合わせがあった模様で、3月30日付でASMLの社長兼CEOであるPeter Wennink氏の談話という形で状況の発表を行った。
それによると、新型コロナウイルスの感染拡大があっても、露光装置に対する半導体メーカーからの需要減少は村れないものの、少なくとも2020年第1四半期の業績には3つの影響を与える結果をもたらしているという。
1つ目は各国の出入国規制などにより、中国・武漢の半導体メーカーをはじめとした多くの顧客に対するArFなどのDUV露光装置の配送に遅延が発生した。2つ目は、サプライチェーンでいくつかの問題が発生した結果、露光装置の製造に影響が生じた。ただし、この問題は3月30日時点では解決済みだという。このため、EUV露光装置の最新モデルとなる「NXE:3400C」の第1号機が完成までに当初の計画よりも長い期間を必要とし、結果として出荷が遅れることとなった。そして3つ目は、一部の顧客である半導体メーカーから、現在の厳しい社会情勢下において、ASMLが継続して露光装置を出荷し続けられるかどうかの懸念を示し、通常の工場受入検査(FAT)をしないまま、露光装置の出荷をすることで、EUV露光装置の納期を早めるように求めてきた点。この場合、顧客の半導体工場に搬送・設置の後に製品の検査が行われ、その後、最終的な検収が行われることになるため、ASMLへの代金支払いは遅れることになるという。
そのため、「現在のところ、第1四半期の売上高は24億~25億ユーロ、粗利益率は45~46%の予想であり、これらの問題により第1四半期に計上できなかった売り上げについては、第2四半期もしくは第3四半期に計上させる見通しである」と同社では説明している。
なお、ASMLが本社を構えるオランダ政府は、飲食店や美術館や学校などの閉鎖を4月末まで、イベントの禁止を5月末まで延長することを決めたものの、企業の工場稼働などについては禁止せず、極力在宅勤務するよう要請するにとどめている。こうした指示に従い、ASMLも技術者や事務職は在宅勤務とする一方、露光装置の製造要員は在宅勤務ができないため出社をしているが、クリーンルームへの入室時の体温計測や隣人との距離を離した状態での作業や食事、ほかの人となるべく会わないようにシフトを作成するなど、感染防止に努めているという。