TSMC、ソニーのCMOSイメージセンサの生産準備を開始 - 台湾メディア報道

半導体受託製造最大手のTSMCが、ソニー子会社でCMOSイメージセンサの生産を担うソニーセミコンダクタソリューションズより受託したハイエンド製品の生産に向け、必要な新規設備の購入や、その認証の準備を進めていると、2019年12月25日付けの台湾メディアの「經濟日報(電子版)」が伝えた。

それによると、両社は2020年1月にも正式な受託製造契約を結ぶ予定だとしているが、TSMCは顧客情報に関し一切公表しない方針を貫いているほか、ソニーも半導体製造の委託先を明らかにしない方針のため、当事者たちの確認はとれていない。

ソニーは、CMOSイメージセンサの生産における前工程(FEOL)の一部(製造上の秘密の少ないプロセス)をロジックデバイスの開発で協業関係にあった三重富士通セミコンダクターに生産委託を行い、半製品をソニー社内で最終製品に仕上げていた時代があった。しかし、三重富士通セミコンダクターにUMCが資本参加したことで、ライバル企業への秘密漏洩を恐れて製造委託を中止したという過去がある。

このようにソニーは、製造プロセスを極秘にし、決して全面的な外部への生産委託を行うことを避けていた経緯があるため、全面的な生産委託は今回の件が初めてになるという。同紙によると、TSMCは、台南にあるファブ14Aの40nmラインに新設備を2020年第2四半期に搬入し、8月ごろから試作を開始するという。最初の月間生産能力は2万枚(300mmウェハ)で、 2021年第1四半期から量産体制に入る見込み。その後、28nm以下のプロセスに移行する可能性があるとも同紙は伝えている。

TSMCのファブ14A全景(台湾台南市台南サイエンスパーク内) (出所:TSMCフォトギャラリーより。TSMCの許可を得て転載)

ソニーは現在、Appleのほか、中国のスマートフォンサプライヤ各社からの注文が殺到する事態となっており、CMOSイメージセンサの供給が需要にまったく間に合っていない状況となっている。そのため、2019年末から2020年頭にかけての年末年始も24時間体制で生産をしていく計画としている。

このため、2020年度末の生産能力を月産13万枚から13万8000枚に上方修正しているほか、2021年4月以降には既存の長崎工場の隣接地に建設を進めている新工場も稼動する予定といったように増産を進めている。しかし、ソニーセミコンダクタソリューションズ代表取締役である清水照士氏は、それでもまだ供給不足は解消されそうにないといったことを、米国系の経済メディアの取材に対して答えている。

ソニーのCMOSイメージセンサ生産量のこれまでの変遷と今後の増産計画(2021年度に稼働予定の長崎新工場の生産量は含まれていない) (出所:ソニーが2019年10月30日に開催した2019年第2四半期決算説明会資料)

大阪に設計開発拠点を開設するソニー

ソニーは生産拡大を進める一方で、それに伴う設計・開発関連の技術者も慢性的に不足する状態となっており、その解決策として、2020年4月に大阪市内にCMOSイメージセンサの設計開発拠点を開設する計画であるという。

同オフィスは、ソニーとして関西で初めてのCMOSイメージセンサ設計開発拠点であり、当面は100名規模をめどに関西における優秀なアナログ設計エンジニアやロジック設計エンジニアなどの人材獲得を進め、今後も市場拡大が期待できるモバイル機器のほか、IoT機器などに向けたCMOSイメージセンサの開発能力を強化し、製品ラインアップの拡充を図っていくとしている。

同社では現在、顧客から動画に対する高画質化をはじめとした高品質化に向けた要求や画像処理へのAI導入といった研究テーマを多数抱えていることもあり、技術者は何人いても足りない状況だとしている。一方で、関西では、将来に向けた半導体事業から全面撤退を決めたパナソニックや半導体事業を分離独立させたシャープなどがあり、今回の大阪オフィス開設は、そうした企業で働いていた半導体技術者を多数リクルートする狙いがあると業界関係者は見ている。

なおソニーは、CMOSイメージセンサのシェア(金額ベース)を現状の51%から2025年までに60%に引き上げる戦略を掲げており、主力のスマートフォン向けに加えて今後は車載・産業用にも注力するとしている。同社の2019年の半導体売上高は、キオクシア(旧東芝メモリ)を抜いて日本の半導体メーカーとしてトップとなるのはほぼ確実とみられており、2019年第3四半期の半導体企業ランキングには日本企業としては唯一となるトップ10を果たすなど、好業績が続いている。