フォーカスは4つの産業分野のエンジニア

カスタマを中心に据えた開発体制に変更した、と同社は説明するが、ではどのようなカスタマをイメージしているのか。これについて同氏は「自動車」、「パワー」、「データセンター」、「航空・宇宙・軍事」の4つの産業分野を挙げる。「これら各分野ごとにカスタマを中心としたクローズドループの開発体制を構築することで、ディスラプティブ(破壊的)な製品の開発につなげる、というのが現在の戦略。フォーカスしているのはそうした分野のエンジニアの役に立つこと」であり、この4つの産業分野を軸として、その中でカバー領域の拡大を図っていくことを目指すという。例えば自動車では、近年、電動化/電子化が進み、各ECUをつなぐネットワークの高速化が求められているほか、自動運転をはじめとする車車間通信など、通信に対するニーズが年々増加しており、対応が求められる通信プロトコルの種類も増加の一途をたどっているが、それらにはじめから対応できるエンジニアはごく一部であり、不慣れなエンジニアのフォローが求められることとなる。「世の中のニーズが広がっていくなら、それをフォローしていくことも我々の使命。我々だけでは持ち得ない技術もサードパーティと協力することで、ソリューションとして提供していくという取り組みも進めている。開発負担が増大するのではないか、という懸念については、開発チームの効率化を図ったり、サブシステム化して組み合わせていく、といった手法を考えている」と同氏は、そうした課題に対する姿勢を説明。カスタマに対するインパクトを狙うことで、リターンの極大化を目指していきたいという。

また同氏は、「これまでの3年間で開発サイクルの加速を図ってきたが、ブレークスルーを成し遂げる取り組みは今後も継続していく。その結果が、毎年なんらかの新製品が発売されることであり、そうした取り組みとイノベーションの組み合わせが次のビジネスにつながっていく。オシロスコープ本体からプローブやソフトウェアに注力する軸が移っていくのはそういう意味もこめられており、CEOも次の3年間は、よりそちら側に対して注力していく、という発言を行っている」と、会社全体でオシロスコープの周辺を含めた強化を行っていくことを強調。実際に、今後3年間でデータアナリティクスなどのツールをハードウェアから切り離した形で開発を行っていく計画で、すでに2018年より、ソフトウェアチームにIoTやアナリティクス、SaaSなど、クラウドを活用することができないか、という提案を行ったとするほか、2018年初頭にデータ・ストリーミング/可視化サービスなどクラウドベースのソフトウェアを手がけるInitial State Technologiesを買収し、クラウドを活用した計測のあり方の模索を進めている。

さらに、「Initial Stateのソフトウェアは、美しく、レスポンス良く、使い勝手良くが売り。しかもワールドクラスのデータセキュリティを有している。それらの特徴を、Tektronixの製品に付与していけないか、という話をしている。それは単なるソフトウェアの提供という話だけではなく、ドキュメントの整備や多くのエンジニアたちの連携など、カスタマが求めるものすべてに対してであり、それらをソリューションとして提供していくことで、従来のボックスカンパニーとしてのTektronixから、ソリューションカンパニーとしてのTektronixへと変化していけるのではないかと思っている」と、計測機器を提供する企業から、計測ソリューションそのものを提供する企業へと変貌を遂げていく方向性を示す。ただし、「基本的なストーリーは変わらない。5年近く前、Game Changerとなったと表現したが、そこから一気にTektronixは変化してきた。カギを握ってきたのはユーザーエクスペリエンス(UX)の向上だ。Game Changerと言っていた時代は、オールインワンがコンセプトで、カスタマが後から機能を付け足すことで、変化に追従しようというもので、この根本的な要求自体は今でも変わっていないが、現在はさらにブレークスルーとして、生産性をいかに向上させるか、という観点が入ってきて、その対応のためにユーザインタフェース(UI)の変更などを行ったし、新規に搭載する半導体(ASIC)の開発も行った。我々はそうしたカスタマのニーズすべてをカバーしていく用意がある」とも語る。

「カスタマが開発する機器の計測は、それぞれのエンジニアがするものであって、我々がするものではない。我々の使命は、そうしたエンジニアたちに『Wow!』と言ってもらえるものを作ることだ」と同氏は、Tektronixはあくまでカスタマの成功が根底にあることを強調するが、そこにはイノベーションがあり、エヴォリューションがある。同氏は「Game Changerから計測業界のInnovatorへ」と今後の方向性を掲げていることを踏まえれば、まだまだオシロスコープの進化は当分の間続いていきそうである。