タッチパネル、高分解能、多チャンネル化、近年のオシロスコープの進化は目覚しいものがある。そうした進化の片翼を担ってきたのが、複数の機能を1台に統合したミックスド・ドメイン・オシロスコープ(MDO)シリーズなどを手がけてきた計測機器大手のテクトロニクス社である。
同社は6月頭に11.6型フルHD 静電容量方式タッチスクリーンディスプレイを採用した「3シリーズMDO」ならびに13.3型フルHD 静電容量方式タッチスクリーンディスプレイを採用した「4シリーズMSO(ミクスド・シグナル・オシロスコープ)」を発表し、すでに展開している5シリーズ、6シリーズと併せて、全方位でのタッチスクリーンオシロスコープの提供体制を整えた。こうした製品開発の背景には、どのような意図が隠されていたのか、Tektronix タイム・ドメイン事業部、副社長 兼 事業本部長のChristopher Witt(クリス・ウィット氏)に話を聞いた。
開発体制の見直しで製品開発を効率化
Tektronixは2011年にMDOシリーズを発表、2017年に従来の基準を一新する技術革新と銘打った銘打ったミッドレンジ・オシロスコープ「5シリーズ MSO」を発表するなど、次々と新規性のあるオシロスコープを市場に投入してきた。「この数年、どうやって新製品を開発していくか、ということを考える毎日でとても忙しかった」とWitt氏が語るように、開発の在り方そのものから変えて、新たな製品作りに挑んできたという。
具体的には従来型のウォーターフォール型の開発体制から、アジャイル型の開発体制へと変更を行ったという。「カスタマを中心に据えた開発プロセスの導入」と同氏は評するが、それにより、従来以上に多くの製品開発ができるようになったとする。
事実、MDOシリーズ登場から新シリーズとなる5シリーズの登場までもラインアップ拡充が続いてきたわけだが、5シリーズ登場以降は、2017年の5シリーズの発売を皮切りに、2017年11月に5シリーズのモニタレスモデル、2018年6月に6シリーズ、そして2019年6月に4シリーズと3シリーズと、1年間に2シリーズの投入も可能になるほど、製品開発の加速に成功している。「開発アプローチの変更の成果」(同)であり、これにより、より顧客のアプリケーションの進化に併せた形での計測器の提供が可能になったとする。
こうした製品開発の加速、特にタッチパネルへの対応は、「タブレットやスマートフォンのような使い勝手を求めた結果」(同)であり、これによりこれまでオシロスコープにあまり触れてこなかったエンジニア(Witt氏がノービスエンジニアと表現するレベルのエンジニア)では、従来と同じタスクを5倍の速さでこなすことができるようになったほか、熟練のエンジニア(Witt氏がエクスペリエンスエンジニアと表現するレベルのエンジニア)でも2倍の速さでタスクをこなすことができるようになったという。「慣れたエンジニアであっても2倍の速度で作業が終えることができる、ということは同じ時間で2回計測をすることができるようになったということを意味する。これは時間的な制約にとらわれる現代のエンジニアたちにとっては朗報になる」と同氏は説明する。
また、こうしたオシロスコープそのものの進化に併せて、プローブ関連の進化も推し進めてきた。「オシロスコープの性能が向上してもプローブの性能も向上しないと意味が無い。我々は世界中のフィールドエンジニアの声を吸い上げた結果として、プローブが重要なものであると再定義し、開発に注力してきた。2019年は3~4製品を発売する予定だが、今後も開発を継続して、カスタマの破壊的なイノベーションの実現に貢献していくつもりだ」。
オシロスコープ本体、プローブの進化はもとより、その中で動くソフトウェアについても開発の強化を図ってきたと同氏は説明しており、その規模はすでに同社内でもっともエンジニアが在籍し、非常に重要なソリューションを生み出すチームという位置づけになっているという。「カスタマは測定に際して、単に波形が見れればよい、とは思っておらず、多くの計測アルゴリズムを駆使して、さまざまなテストを行い、問題がないことを確認しないといけない。そうした現状を踏まえると、製品の中にアルゴリズムを組み込んでいくことが重要になる。我々としては3ヶ月に1回は新たなソフトを提供していくことを予定しており、これによりカスタマのニーズを満足させることを目指す」と、今後はソフトウェアの提供拡大も進めていくことを強調する。