信じがたいことに20世紀の間ずっと、炭鉱の空気をモニタして有毒ガスを検知するのにカナリアが使われていました。炭鉱夫はカナリアを炭鉱に連れて行き、カナリアの鳴き声が途切れず続いているのを聞くことで、吸っても安全な空気かどうかを確認していました。ガスだけでなく、その意味では空気中のどの成分に対しても検知する機器はありませんでした。

  • ガスマスク

有毒ガスや直径が2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)は、吸い込むと人体に害を及ぼしますが、そのほとんどが目に見えず臭いもしないため、身を守るのは容易いことではありません。しかし、最新のテクノロジーのおかげで、今では空気中の有毒物質を検知する、信頼性のある高精度のシステムを活用することができるようになってきました。

こうして開発されたガス検出器は、電気化学セルを使って有毒ガスの有無を検知します。この電気化学セルは、セル全体にいきわたる電解液の中に漬けられた3つの電極で構成されます(図1)。

  • 電気化学セル

    図1:電気化学セル

有毒ガスがガス拡散バリアを通過すると、ガスは作用電極と反応して酸化される(電子を失う)か還元されます(電子を得る)。この反応で電解液を通して対電極と作用電極の間に電流が発生します。そのため電流の変化をモニタすることで有毒ガスが存在するかどうかを検知できます。参照電極は、作用電極が時間経過により劣化していないことを確認します。

また、PM2.5検出器を設計する方法の1つとして、光学的手法の利用が挙げられます。光源(LEDなど)から粒子に光を照射し、粒子により散乱または吸収された光の量を検出器(フォトダイオードなど)が検知します。フォトダイオードは検知された光の量に応じて電流を出力し、ガス検出器と同様に、電流の変化によりPM2.5の有無を表します。

ガス検出器およびPM2.5検出器に必要な設計は、センサの出力電流をマイコンが処理できるように電圧に変換する点で、非常に似通っています。図2は、フォトダイオードからの電流を、A/Dコンバータ(ADC)またはコンパレータでサンプリングするための電圧に変換する回路です。フォトダイオードの出力電流は、トランスインピーダンス・アンプに送り込まれ、電圧に変換されます。次に、この電圧が第2段階のオペアンプに送り込まれてゲインが得られるため、ADCが電圧を正しくサンプリングできます。これと同じ原理はガス検出器の電気化学セルにも当てはまります。

  • フォトダイオードのトランスインピーダンス・オペアンプ構成

    図2:フォトダイオードのトランスインピーダンス・オペアンプ構成

以前掲載された煙感知器の設計に関する記事でも述べたように、Texas Instruments(TI)では、ガス、PM2.5、煙といったさまざまな検知器の設計を簡略化することを可能とするスマート・アナログ・コンボ(SAC)ペリフェラル「MSP430FR2355」を提供してきました。

このSACペリフェラルでは、(それぞれにプログラマブル・ゲインとD/Aコンバータ(DAC)を備えた)4つの内部オペアンプを、汎用モード、バッファ・モード、非反転ゲイン・アンプ(PGA)モード、反転PGAモード、DACモードといったさまざまなモードに設定できます。内部オペアンプ4つを利用できることで、BOM(部品)コストとプリント基板(PCB)の占有面積を削減できるのです。

図3に、PM2.5検知器を設計する場合のMSP430FR2355の構成方法を示します。1つ目のSACモジュールは、DACを用いたバイアス電圧でトランスインピーダンス・アンプを形成する汎用モードに設定されます。このモジュールはフォトダイオード電流を電圧に変換します。2つ目のSACモジュールは、信号にゲインを与えてからADCまたはコンパレータに供給する、反転増幅ステージに設定されます。この構成はガス検出器の電気化学セルにも応用できます。

  • SACモジュールを使用したフォトダイオード電流変換

    図3:SACモジュールを使用したフォトダイオード電流変換

MSP430FR2355は低消費電力に最適化されているため、検出器設計の際に長時間のバッテリー駆動を実現することができます。

参考情報(英語)

アプリケーション・レポート

How to Use the Smart Analog Combo in MSP430 MCUs

ユーザーガイド

MSP430FR2355 LaunchPad Development Kit User's Guide

ホワイトペーパー

Smart Analog Combo Enables Tomorrow's MCU-Based Sensing and Measurement Applications

TI Designs

PM2.5/PM10 Particle Sensor Analog Front-End for Air Quality Monitoring Design
MSP430 Single-Chip, Portable, Carbon Monoxide (CO) Monitor

著者プロフィール

Mitch Ridgeway
テキサス・インスツルメンツ

マイクロコントローラ事業部 アプリケーション・エンジニア