世界の自動車産業が電気自動車(EV)の開発を加速するほか、自動運転技術の研究・開発を行うなど、自動車業界は今、100年に1度の大変革期を迎えている。そうした状況を受け、自動車関連産業として今後の成長が見込まれているのが半導体、中でもSiデバイス以上の省電力化を実現できるSiCデバイスである。
半導体市場動向調査企業である仏Yole Developmentは、このSiCデバイス市場に関して、「2016年~2020年にかけて年平均28%で成長する。さらに、2019年を転換点に、2020年には10億ドルを超す市場へと成長する」と説明している。
そうした状況の中、ロームは4月10日、メディア向けに、同社が今後注力する「SiCパワーデバイス」に関する事業戦略を発表した。
2025年、自動車市場のシュア1位を目指して
「SiCの生産能力の飛躍的な増強を図る」と語ったのは、ロームの東克己 専務取締役。具体的には、2025年における自動車市場でのシェア30%を目標として、SiCウェハ・デバイスの生産能力増強を加速していくという。
同社におけるSiCの成長戦略として説明されたのは、
- 一貫生産(ウェハからパッケージング)による他社との差別化
- エネルギー、xEV、ICTなど、成長市場への採用の加速
- 積極的な投資による生産能力増強
の3つ。この「積極的な投資による生産能力増強」の取り組みとして、SiCパワーデバイスの生産能力の向上を図り、12年ぶりに国内(福岡県筑後市)に新棟を建設する予定だという。同工場は、市場でのニーズが高まっている、SiCウェハ(6インチ)の生産の役割を担うこととなる。
SiCを使用するメリットは、Siに比べて、スイッチング損失・導通損失が少ないために「電力を変換する」際の損失を減らせることができる点にある。従来のSi-IGBTと比べると、スイッチング損失を70~90%、導通損失を50~80%減少させることができる。
さらに、製品を小型化できることも特長だ。SiCはSiに比べて低抵抗であるため、モジュールの小型化が可能なほか、高速・高温での動作が可能なため、周辺部品の小型化、冷却機構の簡素化も実現する。
これらの性質から、SiCパワーデバイスは、特に車載機器での採用が見込まれる。例えば、同社のSiCパワーデバイスは、化石燃料を使用しない電気自動車レース「Formula-E」のインバータ部に採用され、小型・軽量化と高効率化に貢献している。
そのほかにもSiCデバイスは、その特性から太陽光パワコンや蓄電システム、EV発電ステーション、サーバ、FA、産業用設備など、幅広く利用されている。
同社ではこれまで、2010年のSiC-SBDの量産開始にはじまり、SiC-DMOS、フルSiCパワーモジュール、車載品質対応SiCデバイス、SiCトレンチゲートMOSの量産など、市場でいち早く新領域の量産を手掛け、SiCパワーデバイス業界を牽引してきた。東氏は、「SiCパワーデバイスの市場の拡大は、ロームにとって大きなチャンス。確実にシェアNo.1を獲得したい」と意気込みを語った。