Mentor Graphicsは2月25日(米国時間)、同社の半導体設計エミュレーションプラットフォーム「Veloce」のOS「Veloce OS3」のバージョンアップ、ならびに同プラットフォーム上での設計効率や検証効率の向上を実現するさまざまなアプリケーションを「Veloce Apps」の名称のもと、展開していくことを明らかにした。
Veloceを用いるエミュレーションの流れとしては、RTLデザインをVeloceのコンパイラを介してゲートレベル設計に落とし込み、自社開発のエミュレーション専用FPGA「Crystal 2」を16チップ搭載したエミュレーションボードを複数枚搭載したシステム「Veloce2」で実行させることで実現される。Veloce2は1セットで最大10ゲート、MHzクラスのハードウェアテストを実行可能で、ハードウェア検証のみならず、回路合成や出力される各種の波形などもすべて見ることができるので、ソフトウェアデバッグも可能といった特徴がある。
日本法人であるメンター・グラフィックス社内に設置されている256Mゲートの「Veloce2 Quattro」。このほかに、10億ゲート対応の「Maximus」、Maximusを2台つなげて20億ゲート対応にした「Double Maximus」がある。中央と右の画像はロジックボードで、ヒートシンクの下にフルカスタムIC「Crystal2」が置かれている |
今回のアップデートにより、そのVeloce2に搭載されるOSが最新版「Veloce OS3.16.1」へと引き上げられることとなる。同バージョンでは、これまで回路設計に際し、1個1個作成していたゲートについて、複数のゲートを仮想的にまとめる手法(ブロック化)を取り入れることで、階層のフラット化ならびにブロック化により、より少ないメモリでのコンパイルを可能とした。これにより、コンパイル時間の50%削減を実現したほか、波形を目視で確認するまでの時間を2倍高速化したとのことで、ランタイムとデバッグの高速化が可能になったという。
また、Veloce Appsだが、これまでも開発効率の向上にむけたアプリケーションは複数提供されてきたが、それらを1つのブランドの元に統合したものとなるほか、今回のリリースに併せて、「Deterministic ICE」、「DFT」、「FastPath」の3つのアプリケーションも追加された。
「Deterministic ICE」は、物理デバイスを接続したICE環境でよくある再現性の問題を100%再現可能にすることを可能とするアプリ。ICEを接続して実行する際に、「Replay DB」と呼ぶデータベースがそのすべてのデータを記録。物理デバイスを外しても、Replay DBに蓄えられたデータを活用することで、同じ症状を再現することを可能とする。ほかの仮想技術のユースモデルへのアクセスも提供できるため、ハード/ソフト協調検証などにも応用することが可能だという。
「DFT」は、文字通りDesign For Testを念頭においた開発をエミュレータを用いてできるようにするアプリ。通常の開発で、DFTを実行しようと思うと、テープアウト後であったりして、問題を見つけても手遅れ、ということが多い。それをテープアウト前の時点で、できるようにすることで、テスト時間の短縮などを実現しようというものであり、同社によると、センサの場合、DFTシミュレーションで3.1日かかっていたものが、90秒に、WidoIOの場合、83.3日が120分に、グラフィックスの場合、2.7日が58秒へと短縮することが可能であるとしている。
そして「FastPath」は、マルチクロックSoC設計の検証において、ユーザーが何かを追加で行うことなく、エミュレーションの効率を制約しかねない設計上の特質を認識し、その実行時間を最適化するアプリ。これにより、ランタイムの50%以上の最適化が可能になるという。
こうしたアプリの拡充を進める背景について、同社エミュレーション事業部 プロダクトマーケティングマネージャーのGabriele Pulini(ガブリエーレ・プリーニ)氏は、「カスタマのニーズが多様化しており、エミュレーション本体以上に、周辺アプリを含めた形で、さまざまな検証に使いたい、という声が高まってきている」と説明。今回のVeloce Appsというカテゴリも、目的に応じたアプリがあることをカスタマに分かりやすく伝えるために設けられたものであり、今後もオートモーティブやセキュリティなど高いニーズの領域に向けたアプリを中心に拡充を図っていくとのことで、アプリの拡充によるより高度な設計・検証支援を行っていき、半導体ベンダの成長を手助けしていきたいとしている。