バナー広告やリスティング広告、メールマガジン、SNSを利用した販売促進活動、拡散力を期待するバイラルムービーなど、さまざまな手法によるオンライン広告が全盛だ。広範囲な地域にわたって不特定多数の消費者にリーチできるので、全国規模で事業展開する大企業、あるいは関東圏・関西圏といった一大消費地をターゲットにする企業にとって有効だし、地域を絞ったオンライン広告も展開できる。

“地域を絞る”という点で、オンライン広告よりもはるかに精度を高められるのがダイレクトメール(以下、DM)だ。これは、文字どおり直接各家庭に封書やハガキを送付する広告手法で、特定の地域にて商品やサービスのプロモーションができるというのが特徴。地域に根ざした中小企業や個人商店でよく利用される広告手法だ。とはいえ、個人情報保護の意識が高まっているこの時代に送付リストを作成するのは困難だし、アルバイトなどを利用した直接投函も「チラシ禁止」としている集合住宅が多いことを考えるとやりにくい。 こうした理由からDMはリストを持つ外部業者に委託することになるのだが、安易に委託する前に確認したいのが、日本郵便が8月27日からスタートさせた「法人向け年賀情報サイト」だ。年賀状を活用したDMに関する情報や、企業や商店のオリジナル年賀状を作成し、元日に届く年賀状の束にそのハガキが加えられるというサービスなどが紹介されている。年賀の挨拶なので、通常のDMに比べ目を通してもらえる可能性が高く、くじ付きなので即座に捨てられるということも少ない。安全・確実に届くという、郵便システムならではのメリットもある。

では、こうしたDMをより効果的に活用するにはどうすればよいのか……。福博綜合印刷株式会社ダイレクトマーケティングセールス部長の野口恵庸氏にお話しをうかがった。

――DMが効果的に活用できる業態はどういったものでしょうか?

福博綜合印刷株式会社 ダイレクトマーケティングセールス部長 野口恵庸氏

野口氏:個人・法人に関わらず、顧客が存在する業態であればDMを効果的に利用できます。ウェブのみで販促したり、メルマガだけで顧客管理をしたりする企業もありますが、実際にウェブやメルマガを顧客が閲覧するとは限りません。一方、DMは紙媒体です。脳科学では「紙媒体は記憶する・感情を動かす機能を持つ部分を反応させる」という研究結果が明らかになっています。デジタル媒体と紙媒体を併用し、商品やサービスに興味を持ってもらいたい、記憶に残してもらいたいタイミングでDMを活用するとよいでしょう。

――DMをより効果的にするコツのようなものはありますか?

野口氏:DMは個と個をつなぐコミュニケーションツール、つまり「お客様への手紙」であると考えることが“コツ”といえるでしょう。単純に「セール日」と「セール商品」を羅列しただけのDMではなく、「なぜこの情報をお客様に届けるのか」「このセール品をお客様が購入したらどんなよいことがあるのか」といったことを考えるとよいでしょう。また、DMのノウハウがない個人商店であれば「フラッと来店した客」「初めて購入した客」「2~3回購入した客」「いつも購入する客」といったように客層を分け、それぞれの層に適したDMを作ると効果的です。

――逆に失敗しやすいDMはありますか?

野口氏:「買わないと損だよ」「来ないと損だよ」という企業目線のDMはまず失敗します。以前、日頃の感謝を込めて、“ロイヤル顧客”(ブランドや商品などに対して信頼度が高い顧客)に高額割引の案内をしたのですが、反応がさっぱり得られませんでした。あとから顧客にリサーチしてみると「このショップが好きだから、こんな安い値段で買ってお店に損はさせられない」という意見をいただき、目からウロコがこぼれました。

――過去に実施したDMでの成功例や特殊な例はありますか?

野口氏:付近に大型ショッピングモールができるという、商店街のとあるお店のDMを担当する機会がありました。それまでそのお店が発行していたDMは、「いかに安い価格であるのか」というのを強調したものばかり。価格勝負だと大型ショッピングモールと体力勝負となりジリ貧は見えています。そこで宛名面は経営者の熱い思いを盛り込んだ挨拶のみ、裏面はスタッフの集合写真とお客様へのコメントというDMにしました。経営者は半信半疑のようでしたが、結果はキャンペーン初日からレジに長蛇の列ができるほど効果がありました。

――年賀DMなど特定の時期に配布するDMのメリットはありますか?

野口氏:消費者が嫌みなく受け取るDMは3種類しかありません。「年賀状」「暑中見舞い」「バースデーカード」です。これらはすでに日本人の文化として根付いている“ご挨拶”です。企業やショップが顧客との関係性を深める意味で、これらを活用しない手はないと思います。