水中ロボットの普及に立ちはだかる大きな課題

ただ、まだまだ水中ロボットは難しいところがあるということに話は戻る。その大きな点の1つとして、「水中ロボットはすぐそばで見られないのが難点」という。陸上のロボットは仮に移動するものだとしても、ついて行くことは簡単だ。しかし、水中ロボットの場合、一緒に泳がない限りは無理なわけで、そうなると泳ぐこともできて水中ロボットの使用もOKのプールなどが必要となる。「でも、今回のJAMSTECのこのプールのように、水中ロボットを使わせてくれるプールはそうそうない」という点も、水中ロボットの難しさの1つだ。

プールなどどの学校にでもあると思うだろうが、ロボットのような機械を使わせてくれるかというと、それはなかなか難しい。万が一、オイルなどが漏れてプールの水が汚れてしまった場合は大変だし(よって、水中ロボコンのレギュレーションではオイルを使用するようなパーツは認められていない)、オイルを使っていない構造だとしても、踏んだらケガをするような何かの部品が脱落するようなケースも考えられると思うので、なかなかOKとはいってもらえないのが現状である。かといって、透明度の低い池や沼などを使うのは動作試験のような初期の段階では難しいし、なかなかテストするための環境がない、という点が水中ロボットの難しいところの1つなのである。

よって、水中ロボコンをJAMSTECの潜水訓練プールで開催するというのは、深度も3mあって水中ロボットが活動しやすく、また水中をのぞき込める窓もあり、なおかつ万が一の時にはダイバーが拾い上げてくれるということで、充実したテスト環境の提供にもなるのだ。

また水中ロボコンの将来的な話に再び戻り、自然環境の中で行うとしたら、どのようなロボコンが可能なのかという話を聞いてみた。すると、浦特任教授はすでにその種まき的なことはしていて、水中の津波の跡を観察するといった使い方を想定し、東日本大震災の被災地区にある岩手県立宮古水産高等学校にROVを1台プレゼントしたという。漁師の方たちは年配の方も多いため、なかなか新しい機械の操縦方法を覚えつつ、そして同時にその使う目的も考えつつ運用していくというのは難しいことだが、10代の若者だったら逆にロボットと一緒に成長していけることだろう。

「漁師さんたちが海のここら辺がどうなっているのかを知りたいといわれたら、高校生たちがROVで調べに行けるといった使い方なんかが1つ考えられてプレゼントしたんですよ。それが多くの学校に普及していけば、その内、「コンブの林の中を速く進む競争」とか「ウニとか貝を何体見つけられるかとか」、そういう自然の中での競技会ができるようになっていくと思う(画像21・22)。そういうアウトドアのロボコンはなかなかないんだけど、ROVならできるんじゃないかと」と、なかなか面白い競技会の発想が浦特任教授の口から出てくる。しかし、コンブの林の中を抜けていくとなると、取材する側としてはダイビングの準備をして水中カメラも必要なので、なかなか大変そうだ(笑)。

画像21・画像22:将来の水中ロボコンは、海草の間を抜けて行ったり、底生生物を探したりすようになる? (写真提供:プロカメラマン撮影のフリー写真素材・無料画像素材のプロ・フォト)

東北の高校生たちに水中ロボットをプレゼントしたい

また、そういうことをすることによって、新しい機械を若者たちが理解してくれるのではないかと浦特任教授は考えているという。「だけど、水中ロボットは本格的なものになれば1台1000万円するわけで、高校で買えるかというとそうは簡単にはいかない。そうほいほい配って上げられるものではないから難しいんだけど、何とかしてみんなで使ってほしいので、まずは宮古水産高校にあげた。それで終わりではなくて、また別の東北の水産高校にもプレゼントしたいと考えている。こちらとしてもあちこちの学校に渡して上げたいんだけど。ROVを所持する学校が2校、3校と増えていけば、競技会とかできるようになると思うので、さっきいったような自然を対象にした海でのロボコンができればいいなと考えている」と夢は膨らむ。

しかし、それをやりたくても今のところは素地がないから、なかなかできないのが現状だという。それでも、こうした水中ロボコンを続けていくことで、参加する若者たちが増え、このロボコンを卒業した若者たちがそのまま水中ロボット開発に関わるような道に進んで行くことで、自然の中でのロボコンもできていくだろうとし、「急にはできないから、地道に積み重ねていくことが大事だね」とした。

海での水中ロボットによるロボコンは取材が難しそうという話を先ほどしたが、その点はどうしても難しいと浦特任教授も考えているようである。「水中ロボコンは、どうしてもよく見えないから、なかなか盛り上がりにくい」という。また、JAMSTECの潜水訓練プールは、当然観戦用にできている施設ではないため、観覧席などはなく、またスペースにも限りがあることから今回のロボコンでも事前に申請があった一般の方のみ、先着の人数限定で観戦できるようになっており、一般の方が見づらいというのもある。

かといって、水泳の競技会が開催されるような観戦設備の整った大型のプール(これまでにも東京辰巳国際水泳場や神戸市立ポートアイランドスポーツセンターなど大型のプールで開催されてきた)での開催も行われているが、広いところで開催したとしても、水中の様子を見やすくしないと、なかなかわかりづらいのが難しいところだ。

そうした点を考慮し、今回の水中ロボコンでも水中にカメラを設置して、その様子をストリーミングなどで配信していた(画像23)。大型スクリーンの利用はもしなければ設置するだけでも大変だし、なかなか難しいところで、ロボコンとしてもっと世間一般の注目を集めようとした時、いかにわかりやすく伝えられるか、というのはポイントとなるだろう。

画像23。九州職業能力開発大学校のKPC-AUV2013の奥に設置されているのがカメラ