水中ロボコンの目指すもの

水中ロボコンの話が出たので、その開催する狙いに関しても改めて聞いてみた。「若者たち、大学生、高校生、さらには中学生たちに、水中技術の面白さや難しさをわかってもらいたいんです」という(画像16)。さらに、「実際にものを作らないとわらからないことがいっぱいある。しかし、実際にものを作ろうとした時に、陸上のロボットなら市販されているものを買ってきて組み立てればできるけど、水中ロボットはそうはいかない。すぐ水漏れして動かない、壊れました、なんてことになる。どうしていいかわからないのが水中ロボット。無線も潜水すると5~6mまで届けばいい方。それ以上を越えて潜水させようとしたら有線にしなければならなくて、遠隔操縦はとても技術がいる」と続ける。

画像15。水中ロボットは水に囲まれての活動のため、自然に近いといえる

画像16。高校生たちはこの水中ロボットキットを組み立てて競技に挑んだ

浦特任教授のいう通りで、2足歩行にしろ、多脚にしろ、そして車両型にしろ、陸上のロボットは市販されていて数が出ているし、秋葉原などに足を運べばショップもある。さらに、このインターネット時代なのでコミュニティも多いし、個人で情報発信しているビルダーや大学のロボットサークルなども多い。しかし、「水中ロボットを作る」となると、インターネット上の情報ですらぐっと少なくなる。そして「指導者がいないことも大きい」というわけだ。

そこで、学生同士が情報交換をしたり、浦特任教授をはじめとする水中ロボットの研究者からアドバイスをもらったりする場にすることも念頭にして、こうした大会を開いているというわけだ。「学生たちがお互いに競争し合うことで高め合うこと、さらに若い人たちに向けて情報発信して、こういう大会をきっかけにして興味を持ってもらって勉強してもらうチャンスを作りたいというのも狙い」と、浦特任教授は続ける。

現状、水中ロボットの研究はどのように広がりを見せているかというと、参加する大学生チームはだいぶ増えてきたという。実際、今大会に参加した大学を数えると、ROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操縦ロボット)、AUV(Autonomous Underwater Vehicle:自律型水中ロボット)の両部門合わせて、九州工業大学、九州職業能力開発大学校(2チーム)、慶應義塾大学、日本工業大学(2チーム)、東京海洋大学、東京大学(生産技術研究所)、日本大学という具合で、7校9チームになる(画像17・18)。

画像17・画像18:大学生チームの自作の水中ロボットたち。詳しくは大会レポートをご覧いただきたい

もちろん、メジャーな陸上ロボットの大会と比較すると参加チーム数も参加人数もとても少ないのは事実だが、水中ロボットという技術的に難しいことに挑戦していることを考えれば(なんせ、まともにテスト用の環境を確保することすら大変)、筆者個人としては「思っていたよりも多い」というのが感想だ。

高校以下は、さらに指導者の数がもっと少ないということもあってなかなか大変だと思われるが、実は今年は高校生チームが多く、その点も驚かされた。慶應義塾湘南藤沢中・高等部、早稲田大学本庄高等学院、東京工業大学附属科学技術高校(2チーム)という具合で、3校4チームが参加(大会そのものは棄権となってしまったが、岡山商科大学附属高校もエントリーを果たしていた)。特に東京工業大学附属科学技術高校の2チームはフリー部門に参加したのだが、水棲動物を模した「イルカロボット」(画像19)とペンギンロボットの「もるペン!」(画像20)を披露し、がんばっていた。

そのほか、キットの水中ロボットを組み立てて参加する高校競技部門には、神奈川県立海洋科学高等学校、東京工業大学附属科学技術高等学校、慶応義塾湘南藤沢中高等部、早稲田大学本庄高等学院が参加していた。さすがに中学生チームはいなかったが、難しい水中ロボットの大会にも関わらず、平均年齢が低かったのが今大会の特徴だったのである。

画像19。イルカロボット

画像20。もるペン!

このように、浦特任教授によれば「陸上のロボットと比べると、地味で(笑)苦労が多いので、なかなか集まってこない」そうだが、でも年々参加する若者の数が増えており、水中ロボコンもしっかり目的を果たすようになってきたというわけだ。